母乳育児という言葉を問い直す 8 <卒乳・・・より長く飲ませる方向へ>

経産婦さんに「上のお子さんが母乳をやめた時期はいつ頃で、どんな感じでしたか?」とよく質問するのですが、驚くのは大半の方が「記憶にない」という答えが返ってくることです。


せめて「何ヶ月頃までは吸わせていた」ぐらいは覚えているかと期待するのですが、本当に忘れているようです。


時々、鮮明な記憶がある方がいらっしゃっいます。
「(上の子3人とも)いつも3ヶ月頃になるとなぜか、ぱたっとおっぱいを飲まなくなって、おっぱいも出なくなった」
「1歳から2歳頃の間にだんだんと回数が減って、2〜3日に一回ぐらい思い出したように吸ったりしているうちにいつの間にか吸わなくなった」
など、時期も卒乳のパターンもいろいろのようです。


中には赤ちゃんや幼児の不思議な行動の話もありました。


「3ヶ月頃まではほとんどミルクだったのに、それ以降はおっぱいばかりを飲むようになった。1歳になっても一日に8回も9回も吸っていたのに、ある日、公園で同じくらいの赤ちゃんとお母さんたち数人で話をしていて、うちの子だけまだ母乳を吸っている話になったら、その夜からぱたっと赤ちゃんがおっぱいを吸わなくなった」
「3歳までずっと吸っていたけれど、ある日突然、出勤するお父さんに向かって『おっぱいバイバイ』と言ったあと、ぱったり吸わなくなった」といった話も。


確かに、乳幼児が自らその時を決める「卒乳」もあるのかもしれません。
そして「ある日突然」「パタッと」という話を聞く頻度が高い印象です。
面白いですよね。



<6ヶ月、2歳というWHOの根拠はどこからか>


こういうお母さんたちの話を聞いている限り、「母乳を飲ませていた期間」について多くのお母さん達の記憶はかなりあいまいという印象があるので、私にはWHO/UNICEFはどうやって「母乳は6ヶ月まで」とか「2歳までは母乳をあげて補完食を与える」といった数値を出したのだろうと引っかかるのです。


授乳期間やその内容(母乳だけ、ミルクや補充食を与える、ミルクだけ)にも多様なバリエーションがあり、その全貌がわかるほどのデーターも私自身は見た記憶がありません。


つまり全体像さえわからないのに、いつまで母乳を飲ませるかという目標数値が定められてしまっているのではないでしょうか。


<赤ちゃん主体のはずが>


こちらの記事厚生労働省の「授乳・離乳の手引き」から卒乳の説明を紹介しました。再掲します。

卒乳とは、赤ちゃん主体で行い、自然に母乳を欲しがらなくなるまで授乳をつづけることである。赤ちゃんの成長や発達、家庭環境によって、赤ちゃんが母乳を必要としなくなる時期は個人差が出てくる。そのため、「何ヶ月になったら母乳をやめる」といった時期を決めることは難しい。


「母乳をやめる時期」を決めるのも難しいですが、反対に3ヶ月でやめた赤ちゃんのように早く卒乳する赤ちゃんもいるわけで、「何ヶ月まで飲ませる」と決めることは無理があると思います。


ところが「母乳育児支援」になると、早い時期に卒乳をしたのは「母親への支援不足」ととらえるようです。


「母乳育児支援スタンダード」(NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会、医学書院、2007年)では、「母親が卒乳を考える理由」のなかで「生後4ヶ月未満の場合」として以下のように書かれています。

困ったときの情報や支援が不十分なために、母乳育児を続けることが困難になっていることが多い。乳頭の痛み、乳頭混乱、母乳不足感、母乳分泌過多、乳腺炎、職場復帰、薬の内服などである。いずれの場合も、適切な情報と支援があれば、ほとんどの場合母乳育児を続ける事がかのうであるので、それぞれの項を参照されたい。また、授乳をやめる理由に赤ちゃんの世話が大変だからという声もよく聞かれる。大変なのは子育てそのものであって、母乳育児なのではない。母親の辛さに十分耳を傾け、共感した後に情報提供するようにする。やめたからといって他の方法で子どものニーズに応えていかなければならない状況はかわらない。人工乳にして、他の人に預けられることができれば息抜きになると考える母親は多い。そういうときには、母乳を続けながら子どもと一緒にサポートグループに参加したり、授乳と授乳の間の時期に夫や他の家族に預けたりすれば息抜きができることなどを提案する。


預けられればそうしていたことでしょう。


こうした文章に違和感を感じるのは、赤ちゃんの気持ちを大事にした「卒乳」という言葉を使いつつ、早く卒乳することは母親側が止めたいとかうまく授乳をしていないことが理由にすりかわっていることかもしれません。


冒頭で紹介した「3ヶ月でいつも赤ちゃんがやめてしまう」と話してくれたお母さんは、母乳もよく出て自分としては1年くらは飲ませたいと思うのに、いつも赤ちゃんがパタッとやめてしまうとのことでした。


早い時期の卒乳もある。
そうした事実の掘り起こしからまず始めないと、理想論でお母さん達にストレスを与えてしまうのではないかと思います。




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