自律授乳のあれこれ 11 <分娩後30分以内の「授乳」>

WHOの「母乳育児を成功させるための10か条」には以下の項目があります。

4.母親が分娩後、30分以内に母乳を飲ませられるように援助すること

たしかに1990年代初め頃の産科施設では、まだ分娩室で赤ちゃんを抱っこしたりおっぱいを吸わせてみることをしているのは、「先駆的な施設」の印象があるほど、生まれたばかりの赤ちゃんは少しだけお母さんの顔を見るとすぐに新生児室へ連れて行かれている施設が多かったのではないかと思います。


お母さんも、そしてお父さんもご家族も、生まれた赤ちゃんと一緒にいたいと思うのは当然のことです。
1960年代に医療施設での分娩に変化した時代に、新生児を常に観察し無事に生き延びさせるための医学的管理と引き換えに、家族とともにいる機会を失わせてしまったことは事実でしょう。


私は幸いにして1980年代終りに助産師になった時に、すでに分娩直後に赤ちゃんと一緒にいられるように対応している病院に就職しました。
でもこういう変化のひとつをとっても、施設内の方法を変えるというのは相当大変なことです。
当時はまだ分娩直後にお母さんと赤ちゃん、あるいはご家族と赤ちゃんを一緒にいられるようにすることに苦戦していた施設も多かったのではないかと思います。
学生時代の実習先の大学病院も、すぐに新生児室へ連れて行っていましたから。


ですから、WHOのこの一文が徐々に日本の産科施設を変える大きな力になったと思います。


<なぜ「授乳」なのか?>


でも、なぜ「30分以内」に「授乳」なのでしょうか。
「お母さんと赤ちゃんが一緒にいられるようにする」だけではだめなのでしょうか?
なぜ「母乳育児成功」の目標に限定されてしまったのでしょうか?


母乳育児には「それをすることが不可欠」という絶対的な条件であれば、掲げる意味もあると思います。


でも現実には、分娩直後、特に30分以内に初めての「授乳」ができない場合はいくらでもあります。


お母さんが出産で力を使い果たして、赤ちゃんを抱っこしたりする気力もないほどのこともあります。
あるいは出血が多かったり、血圧が高くてお母さんの安静を優先する必要がある場合もあります。


赤ちゃんもすこしぐったりしていたり、呼吸が速くなっておっぱいを吸えない場合もあります。
お母さんは抱っこしたくても、すぐに保育器に入れる必要がある場合もあります。


でも、多少はじめての直接授乳が遅れても、お母さん、赤ちゃんそれぞれが元気になればほとんどの場合、何も問題がなく授乳を続けられます。


また、お母さん赤ちゃんともに何も問題がなくて、出生直後にすぐに抱っこをしても、赤ちゃんが頑としておっぱいを吸おうとしないこともあります。
抱っこされていれば静かにしているのですが、おっぱいに吸い付かせようとすると大泣きし始めるのです。


こちらの記事の最後の方に書いた、出生直後から「うんちとの闘い」が始っていると思われる赤ちゃんです。


そして一番大事なことは「母乳栄養」の対象外の赤ちゃん、つまり最初からミルクで育てる必要のある赤ちゃんにはこの「分娩後30分以内の授乳」はどう考えたらよいのでしょうか?
やはり、同じように生まれて30分以内に哺乳瓶と人工乳首をくわえさせてあげているのでしょうか?
そして両者には何か違いがあるのでしょうか?



新生児の自律とは「授乳」だけではないのに、このWHOの10か条は新生児に関わる医療従事者に根深い「思い込み」を植えつける機会になってしまったのではないでしょうか。