助産師の応召義務を考える 5 <夜間・休日の電話対応>

産科病棟や産科診療所というのは、医療機関の中でも電話相談が最も多い部署ではないかと思います。いえ、はっきりとした統計があるわけではありませんが。


妊娠中の症状の問い合わせ、お産が始まったかもしれないという連絡、そして産後のお母さんや赤ちゃんの状態についての問い合わせなど、多いと一晩に数件以上かかってきます。
中には、真夜中の緊急避妊や人工妊娠中絶の相談まであります。


時に「それは外来時間内にかけてくださればよいのに」と思う内容もあるのですが、一旦、電話に出たからにはお話を伺って、どうしたらよいかを説明します。


当直医に確認した方がよいと思われる症状については、休んでいる当直医を起こして相談して、受診してもらうか様子をみてもらうかの判断を決めることもあります。


妊娠中の症状についても、お産の始まりか判断に迷うような弱い陣痛や出血あるいは破水感にしても、電話をかけてくる時には「大丈夫でしょうか?」と尋ねる方がほとんどです。
「こういう症状があるので見て欲しい」とはっきりおっしゃる方はあまりいません。
たしかに自分では判断できなくて悩むのだと思いますが、電話だけで「様子を見ていいですよ」と言われることも期待しているのかもしれません。


でも電話を受けた側としては「実際に見てみないとわからない」ことがほとんどなので、「心配なら今から受診してください」ということになります。


どれくらいで来院できるか確認し、その来院予定時間までに通常の病棟業務を融通しておき、夜間の緊急受診の準備をします。
来院されたら診察の介助をし、帰宅するための精算をし、片付けと記録を終えるとこの夜間の対応だけで1〜2時間が必要になります。


この夜間の電話に出て対応するのが助産師・看護師です。
そして基本的に、こうした電話での相談は無料で対応しています。たとえ当直医に判断を委ねても、医師への診察料や相談料というものも要求しません。


このような夜間休日の電話対応や受診を医療機関で受けられるような時代がくるとは、助産師の応召義務が明文化された1948(昭和23)年には想像もできなかったのではないかと思います。

助産または妊婦、褥婦もしくは新生児の保健指導の求めがあった場合、これを拒んではならない。報酬の不払いなどは正当な理由にならない。
(「助産師の応召義務」より抜粋)


助産師の応召義務の内容に最も近いのは、この産科施設での電話相談かもしれません。


<「地域医療貢献加算」>


診療報酬や医療経済は全く不勉強なのですが、最近、この電話相談についても医療事務の方が内容を確認するようになりました。


この背景には、「平成24年度診療報酬改定の概要」の「地域医療貢献加算」(p.10)があるようです。

地域医療貢献加算について、分かりやすい名称に変更するとともに、診療所の時間外の電話対応等の評価体系を充実させ、休日・夜間に病院を受診する軽症患者の現象、ひいては病院勤務医の負担軽減につながるような取り組みのさらなる推進をはかる。


周産期医療の場合、ローリスクからハイリスクまでの周産期医療ネットワークシステムがすでに整備されていましたから、総合病院への軽症者受診を抑えるというこの加算の目的はあまり関係がないかもしれません。

時間外対応加算1
診療所を継続的に受診している患者からの電話等による問い合わせに対し、原則として当該診療所において、常時対応している体制がとられていること。


産科施設では、以前からずっとこうした夜間・休日の電話対応を無報酬でしてきたわけで、義務というより「地域貢献」というニュアンスのほうが私たちの気持ちにも近いかもしれません。


やはりいろいろ考えてみたのですが、どうも現代には「助産師の応召義務」にぴったりくるような状況が思い浮かばないのです。

助産師の応召義務について考える」の過去記事
「1.時代の変化」
「2.応召義務に変わる社会のシステム」
「3.地域開業助産師の応召義務は現実的か?」
「4.時間外呼び出しと応召義務」