アドバンス助産師とは 16 <保険医療機関と保健医療機関>

なぜ、乳腺炎の対応にはアドバンス助産師の資格が必要というニュアンスの噂が広がっているのだろうと検索していたら、「日本助産学会」の「乳腺炎重症化予防ケア・指導研修について」に以下のように書かれていました。

 日本助産学会では、「乳腺炎重症化予防ケア・指導料」の診療報酬収載に伴い、<乳腺炎重症化予防ケア・指導>に関するオンデマンド研修を解説しました。


 乳腺炎重症化予防ケア・指導料」診療報酬算定基準にはアドバンス助産師の配置が必要です。


寝耳に水でびっくりですが、「平成30年度診療報酬改定」をよく読むと、ちょっとしたからくりがありそうです。


<「保険医療機関」と「保健医療機関」>



前回の記事で引用した「平成30年度診療報酬改定」の「施設基準」には以下のように書かれています。

1. 当該保険医療機関に、乳腺炎の重症化及び再発予防の指導並びに乳房に係る疾患の診療の経験を有する医師が配置されていること。

2. 当該保健医療機関に、乳腺炎の重症化及び再発予防並びに母乳育児に係るケア及び指導に従事した経験を5年以上有する者であって、助産に関する専門の知識や技術を有することについて医療関係団体等から認証された専任の助産師が、1名以上配置されていること。

「2」の「保健医療機関」という言葉は初めて聞きました。検索してみたのですが、出てくるのは保険医療機関だけでした。


例えば、私が勤務する産科診療所はもちろん産科医師がいますから、「1」の施設基準に該当します。
「1」では特に、助産師に関しての規定はありません。
乳腺炎の対応については、まだまだ全国的な標準化が求められるところですが、少なくとも医師の指示のもとに、助産師だけでなく看護師もケアをすることができると読むことができます。


では「2」の保健医療機関とは何を指しているのでしょうか。
「2」には医師についての規定がないので、助産所のように読めます。


となると、助産師が経営する助産所で、診療報酬を受け取れるようになるということでしょうか。
それが「保健医療機関」の意味だとしたら、時代を大きく揺り戻すことになるのではないかと危惧しています。


<医療類似行為が整理されてきた時代に逆行>



医療の国家資格の中で医師以外に保険診療をすることができる資格に唯一、柔道整復師がありますが、医療の歴史を考えればこちらの記事の「医療類似行為に線引きが行われた時代」の遺物とも言えるのではないかと思います。


この柔道整復師と整形外科医の関係は、開業助産師と産科医の関係に似ているのかもしれません。


医師が少なくまた皆保険でなかった時代には医師にかかることも大変で、医療を受けるということは借金を抱える時代にはこうした医療類似行為が容認されていたのですが、今や治療は医学を納めた医師による時代です。
皇帝のものは皇帝にには、いつの時代にも起こる話ですね。


開業権を守りたいが根強い助産師の世界で、乳腺炎の対応を標準化する組織もないまま「保健医療機関」という新たな概念を作り、そこへの診療報酬を認めたら大変なことになりそうですね。
舌小帯が原因とか冷えが原因とか乳腺炎予防のレメディとか乳腺炎予防の食事とか亡霊のように出てきそうで・・・。


助産師の皆さん、大丈夫ですよ。
アドバンス助産師を取っていなくても、この内容でみれば通常の産科施設では今まで通り乳腺炎に対応する意味だと思います。
医師とともに一人一人の症例を積み重ねて、うまくいかなかった症例にもきちんと向き合い、全国の産科施設の経験を標準化していくシステムを作っていきましょうよ。




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