「帝王切開で生まれる」
人間が生まれる方法には大きく2種類あって、ひとつは吸引分娩や鉗子分娩も含めた経膣分娩で、もうひとつは帝王切開です。
この差は何かあるのだろうか。
胎児から新生児になる決定的とも言える瞬間に、この分娩方式の違いは何か影響があるのでしょうか。
たぶん、帝王切開を日常的に見たことがない方が世の中ほとんどなわけですから、その場合、お母さんのお腹から赤ちゃんが生まれてくるイメージぐらいしかないのかもしれません。
そして「産道を通った」(経膣分娩)に対して、「産道を通っていない」(帝王切開)という事実が、その赤ちゃんは何か違う生まれ方をしたのではないかと漠然とした不安となり、母親だけでなく周囲の人も思い込みになっていくことはあるようです。
あるいはバーストラウマといった妄想の世界へと入り込ませることもあることでしょう。
たとえば、こちらの記事で紹介した「帝王切開でイヤだったこと」の中に、以下のようなことが書かれています。
子育ての悩みを帝王切開にしてしまう
心のなかに蓋をして見えないようにしている大きな塊は、子どもが言うことを聞かない時や自分の体調が悪い時に顔を出してきます。夜泣きがひどいのも、トイレトレーニングが進まないのも、反抗期がひどいのもすべて帝王切開だったからではないか・・・と本気で思っている母親がたくさんいます。
ある参加者は4000gを超すビッグな赤ちゃんを帝王切開で出産し、母親はまだベッドの上で痛みと戦っている時、先に赤ちゃんに対面した姑に「赤ちゃん、ずいぶん大きな声で泣いていたわよ。帝王切開だったからじゃないの?」と言われたそうです。彼女は、お子さんが8ヶ月になり会に参加される時まで、大きな泣き声さえも悪いように受け止めていました。
「帝王切開だから大きな声で泣いている」と言ったその人の気持ちはどこから来るのか、何を表現したかったのか。
そして、よその赤ちゃんでも大きな声で泣いていることを冷静に受け止めなくなるほど、その一言に囚われてしまったのはなぜか。
それを考えるだけでも「気持ちの問題」の複雑さや難しさを感じます。
ただ、日常的に帝王切開で生まれた赤ちゃんを見ている私たちでさえ、案外、「この生まれ方の違いで何か変化や影響があるのか、ないのか」そんな観察が十分だったとは言えないのではないかと思います。
帝王切開で生まれる。
生まれ方の違いで何か差があるのかないのか。
帝王切開で生まれた赤ちゃんについては、わからない状態に耐える必要があるぐらいわからないことだらけなのかもしれません。
もちろん「産み方は生き方」に行きつくような生まれ方によって人生が決まるというような話ではなく、帝王切開によって胎児から新生児になった赤ちゃんをケアするためにはなんらかの注意が必要という部分があるはずです。
ところが、母親に対しての帝王切開の術中・術後の看護の標準化が遅れているように、帝王切開で生まれた新生児のケアもまだ言語化がされていないといえます。
そのあたりを少しずつ考えてみようと思います。