帝王切開で生まれる時には産道による胸郭への刺激がないために出生後の呼吸障害が起こりやすいかどうかについては、在胎週数の影響のほうが大きいのかもしれません。
それ以外に、胎児から新生児へと変化する過程で、帝王切開と経膣分娩で異なる状況にはどのようなことがあるのでしょうか。
胎児が産道を通過しないで帝王切開で生まれた場合に、母親の膣内の常在細菌に触れる機会がない、あるいは少ないということかもしれません。
胎児と新生児の免疫系についての専門知識はほとんどないのですが、基本的に子宮内は無菌状態ですから、母親の腹部からいきなり世の中に出る場合と膣内を通過してくる場合には、世の中の細菌に曝露される機会は大きな違いがあることは想像できます。
ただし、先に破水していた場合や分娩(帝王切開)前から子宮内感染を起こしている場合もあるので、その状況は個々のケースでもまた違うのでしょう。
この母親の膣内や皮膚の細菌が新生児の腸内細菌叢や皮膚細菌叢に影響を与えているのではないかという視点も、案外、最近になってからの話題です。
<新生児の便の変化はあまり観察されてこなかった>
「新生児にとって『哺乳行動』とは何か12 <とらねこ日誌に載せていただきました>」の冒頭にこんなことを書きました。
胎児から新生児になった瞬間から劇的に腸内が変化していくのに、なぜ母乳を飲ませるテクニックのような話ばかりになるのだろう。
こういう疑問を持ち始めたのが、1990年代終わりの頃、助産師になって10年ぐらいたった頃でした。
「吸わせれば出る・・・のか」に書いたように、私は助産師になったころから母乳に感心があり、とても「熱心に指導」したり、退院後も自主的に訪問をさせてもらっていました。
世の中はだいぶ「母乳育児」に向きはじめていましたが、いまほど「母子同室」を強調されることはなく、夜は預かってミルクを足すという施設に移って勤務しました。
夜中の赤ちゃんの大合唱の中、ミルク授乳やオムツ交換、そして抱っこしてあやすということを繰り返しているうちに、生後日数による新生児の変化というデーターが私の中に蓄積されたのではないかと思います。
その変化に最も影響を与えているのが、便の変化ではないかと。
胎便から移行便そして母乳便という分類は学生時代には習いましたが、それだけではないもっと複雑で、でも新生児全体に見られる法則性がある。
それはうんちの臭いの変化です。
赤ちゃんのうんちはヨーグルトのような臭いがします。
これを「当たり前」として思い込んでいて、最初の頃は何も疑問に思うこともありませんでした。
そのうちに、ヨーグルトのような臭いになるまでには段階があること、あるいはそういう臭いになるのがゆっくりな状況もあることなどが見えてきました。
でも、どの文献をみても当時は私の疑問には答えがありませんでした。
ちなみに、1980年代終わりの助産学生時代の教科書の「新生児の便」に関する記述はこれだけでした。
出生後の初回の排便、排尿の有無を確認する。
おそらく、別のテキストで胎便・移行便・母乳便の定義ぐらいは習ったのかもしれません。
ただ、学生の時に参考書として使用した「最新産科学ー正常編ー」(文光堂)でも、新生児の便については以下の記述のみです。
a) 胎便・・・24時間以内がほとんど
b)移行便・・・生後3日以内にみる
(以下、略)
これぐらいしか習わなかったので、新生児の便の変化と腸内細菌叢の変化に思い至るまで、10年ほど時間がかかったのでした。
<帝王切開で生まれた赤ちゃんの体重が増えにくいのはなぜか>
そのうちに、帝王切開で生まれた赤ちゃんには生後2〜3週間ぐらいまで体重増加がゆっくりというか、横ばいのままの赤ちゃんが多いような印象を持つようになりました。
これはあくまでも私個人の観察にもとづく印象にすぎませんが。
最初の頃は、お母さんに頑張ってもらって搾乳をしてもらってなんとか飲む量を増やそうとしましたが、2〜3週間ぐらいはなかなか授乳量も増えないのです。
ただし、帝王切開だけでなく<生後2〜3週間目で変化する可能性>に書いたように、黄疸がじわじわと続いている赤ちゃんにもこういう傾向がありますし、帝王切開で生まれた赤ちゃんでも生後数日でぐんと体重増加期に入る場合もあります。
何かひとつが決定打というほどの関係はないのだと思いますが、体重増加期に入り始めた赤ちゃんのうんちは甘酸っぱい臭いに変わっていることが多い印象です。
ミルクだけの場合でも、母乳便に近い臭いになっている赤ちゃんもいます。
新生児の腸内細菌叢の変化についてぼちぼちと情報を見るようになったのが2000年代終わりの頃でした。
それで、703さんへの返信にこんなことを書きました。
帝王切開の赤ちゃんの方が、腸内細菌叢の形成がゆっくりだという研究報告があります。経膣分娩の場合は産道で母体の常在菌を取り込む機会があるのに対し、帝王切開、特に予定帝王切開の場合にはいきなり子宮内から外界に出るためのようです。
たしかに、帝王切開の赤ちゃんのほうが生後1週間ぐらいたってもほとんどうんちの臭いがしなかったり、ミルクを足してもー数%で横ばいがしばらく続くことが多い印象です。生後2〜3週間頃からぐんと体重増加期に入るようです。
帝王切開と新生児の腸内細菌叢について書かれた文献を、次に紹介しようと思います。