帝王切開で生まれる 4 <帝王切開と新生児一過性多呼吸>

「産道」を通らずに帝王切開というバイパスを通って生まれることで、出生直後には何か影響があるのでしょうか?


早産についてはかなり状況が違うので、今回は正期産での帝王切開について考えてみたいと思います。


経験的に、「帝王切開の赤ちゃんは一過性多呼吸になりやすい」「帝王切開の赤ちゃんは低体温になりやすい」ということはどこからともなく聞いて知っていました。
たぶん、一緒に勤務していた小児科の先生方からなんとなく耳にしていたのだと思います。
この場合の帝王切開というのは緊急帝王切開ではなく、陣痛が始まる前におこなわれる予定帝王切開のことを指していました。


その根拠や統計、あるいはケアの実際はどうしたらよいのかと、周産期関係の本を書店で見るたびに気にして探していたのですが、今までほとんど目にすることがありませんでした。


助産や周産期看護の教科書でも、この予定帝王切開だけでなく緊急帝王切開も含めた「帝王切開で生まれた児の観察とケア」を総合的にまとめたものはいまだになさそうです。


「帝王切開についての専門書がほとんどない」の記事で紹介した「助産師だからこそ知っておきたい術前・術後の管理とケアの実践 帝王切開のすべて」(ペリネイタルケア2013年新春増刊号、メデイカ出版)に、「帝王切開児の観察項目」という記事がありました。


帝王切開と新生児一過性多呼吸>


その中に、予定帝王切開の赤ちゃんには新生児一過性多呼吸が多くなりやすいことが書かれています。

胎児の肺は肺水で満たされているが、陣痛が刺激となって、肺水の産生抑制や吸収が促進される。選択的帝王切開は陣痛発来前に施行されるため、肺水の吸収遅延が生じやすい。そのため、出生後に呼吸障害が見られ、新生児一過性多呼吸(transient tachypnea of the newborn:TTN)の頻度が高くなる。


この新生児一過性多呼吸についてわかりやすい説明が、「こどもケア」(2014年6,7月号、日総研)の記事が公開されていました。


「出生後に肺でガス交換が行われるようになるためには、肺液が速やかに吸収・排出されなければならない。そのために次のような機序が働いている」として、以下の4点が書かれています。

1.妊娠後期になると肺液の産生量が徐々に減少する。

2.陣痛が始まると胎児の体内でエピネフリンの分泌が急増し(エピネフリンサージ)、その働きで、肺液が肺胞腔から肺間質に移動する。

3.経膣分娩の場合は産道通過の際に児の胸部が圧迫され、肺液が気道から外に排出される。
 以前はこの胸部圧迫が肺液排出の主な機序とされていたが、現在では排出される肺液の量はそれほど多くないと考えられている。

4.啼泣開始によって肺が拡張して圧がかかり、また肺に流れる血流も増加することによって、さらに肺液の吸収が促進される。


これらの機序が障害される原因として、「早産、陣痛発来前の帝王切開、新生児仮死などがあげられる」とされています。


経膣分娩にすれば新生児仮死で新生児蘇生法が必要になることが予測されるので帝王切開になったのに、その帝王切開自体に呼吸の始まりと啼泣(ていきゅう)を阻害する試練の可能性があるわけですから、水の中から世の中に生れ出るというのは本当に大変なことですね。


<予定帝王切開の時期と新生児一過性多呼吸>


私自身は月に1〜2件程度の予定帝王切開を行う施設での勤務経験なので、実際にはこの予定帝王切開が直接影響したと推測されるような新生児一過性多呼吸にはあたったことがありません。
むしろ難産の末に生まれた赤ちゃんの一過性多呼吸は、しばしば経験しました。


また予定帝王切開でも、お腹から出た赤ちゃんが元気に第一啼泣を始めることがほとんどなので、上記3の「産道通過の際の胸郭圧迫」がどこまで本当に第一啼泣に影響するのだろうと気になっていました。


この「胸部圧迫が肺液排出の主な機序→第一啼泣」が見直されてきた背景には、もしかしたら帝王切開を実施する週数との関係の方が重視されるようになったこともあるのでしょうか。


ペイネイタルケアには以下のように書かれています。

 Titaらは、既往帝王切開のために選択的帝王切開を受けた13,258例について、在胎週数別に正期産新生児の臨床所見を検討した。この検討では、妊娠39週より前に帝王切開となる割合は35.8%であった。在胎期間39週での帝王切開児と比較して、37週では呼吸障害、人工呼吸器管理、敗血症、低血糖NICUへの入院や5日以上の入院が必要となる頻度が1.8~4.2倍高くなり、38週では1.3~2.1倍高くなることが示された。妊娠37週に入ると正期産となるため選択的帝王切開で出生する児は多い。これらの児は妊娠39週台に帝王切開で出生した児と比較して、呼吸障害や低血糖などの合併症の頻度が高くなることを知った上で分娩に立ち会い、出生した児を観察する必要がある。


最近では勤務先でも、できるだけ38週台以降に帝王切開の予定を組んでいるのですが、どうしても内診所見や施設の予定などから37週台の帝王切開もあります。
あるいは予定帝王切開の方が36週台で破水し、緊急帝王切開になることもあります。


36週から37週ぐらいで陣痛発来前に帝王切開になって出生した赤ちゃんは、体温が安定しなかったり、哺乳力や体重増加もゆっくりだという印象があります。


ただ、今回探した資料や本では帝王切開と多呼吸に関してはかかれているものの、それ以外の特徴やケアについて具体的に書かれたものは見つけだせませんでした。


帝王切開という産道のバイパスを通って生まれた赤ちゃんの傾向については、ようやく少しずつ明らかになってきた段階なのかもしれません。