助産師の世界と妄想 18 <出生直後の「インプリンテイング」?>

勤務先は小規模の分娩施設なので、様々な経験を持った助産師がアルバイトなどで入ってきます。
「ふーん、なるほどそういうやり方や考え方もあるのか」と物の見方が広がることもありますし、「結局はあまりこだわりを持つ必要もないのでは」と平均的な考え方を知る手がかりにもなります。


ただ、時にまた「あーあ、また助産師の世界だ」と私のアンテナがピッと反応することもあります。


最近一緒に働くようになったスタッフが、分娩介助後の申し送りで「インプリしておきました」と言っていました。
今までそういう表現をした人はいなかったので、他のスタッフは皆「?」という表情でしたが、誰もあえて質問もせずにその場は終わりました。


私はその「インプリンテイング」がどのあたりから出て来た言葉かすぐに想像ができたので、思わず「ヒトにその言葉を使う意味はありますか?」と質問したくなったのですが、ぐっと抑えました。


こういう思い込みからくる言動には、「それはおかしい」と直球を投げれば相手は心を閉ざしやすいのでやんわりが良いだろうと、私もだいぶニセ科学の議論で学習をしたので。


<刷り込みとは>


コトバンクのブリタニカ国際大百科事典ではインプリンテイング、刷り込みについて以下のように書かれています。

学習の一種。刻印付けともいう。刷り込みによる学習には、行動の修得に多数回あるいは長時間の試行を必要としないこと、普通生後まもなく、ある限定された時期にのみ学習が成立すること、一度修得された行動はその後の経緯によって訂正されず、非可逆的であり消去されにくいことなど、一般の条件づけによる学習過程とは異なった特色がある。


動物の行動については全くのど素人ですが、「刷り込み」と聞くと、「生まれて最初に見たものを親だと思い込む」といったことが思い浮かびますし、動物番組で飼育員さんたちを親のように慕っている幼い動物の姿のイメージなどがでてきます。
こういう話は私が子どもの頃にはすでに世の中に広がっていた記憶があります。


頼みの綱のWikipedia刷り込みには、期待を裏切る短い説明しかありませんでした。
その中には、こんな説明もあります。

ローレンツは、この現象を、成立すればその後は一生維持されるというように考えていたようだが必ずしもそうではなく、また、その内容は種によっても異なる。

また、別の親代わりのものを提示すれば、それに追従する行動も見せ、案外と覚え直しもできることがわかっている


ざっと読む限り、動物にも「刷り込み」とよべる行動はなさそうですね。


<ヒトのインプリンテイング?>


さて、助産師になってからもヒトの新生児に関して「刷り込み」と定義できるような行動が明らかになったことは聞いたことはありません。
新生児に関する医学書もそれなりに目を通していますが、「刷り込み」について記述を目にしたこともありません。


「インプリしました」は何を指しているのでしょうか?
そしてどこからその言葉は広がったのでしょうか?


ちょっとその時には「インプリって何をしたのですか?」と質問するのも憚られたので、いつか本人に確認しようと思いますが、おそらく「早期母子接触」「分娩台での(30分以内)の授乳」あたりではないかと想像しています。


「それをしなければ何かヒトの新生児には問題がありますか?」と尋ねれば、きっと乳頭混乱を理由にあげるのではないかと。


そのスタッフが以前どこでその言葉を使うようになったのかは知らないのですが、申し送りで「インプリ」という言葉が飛び交っている施設があることに、「あーあ、助産師の世界は」と思ったのでした。




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