院内助産とは21 <異常を知らなければ正常もわからない>

異常を知らなければ正常もわからない

これは私の助産師学校の恩師の言葉です。
当時の「自然なお産」ブームに心を動かされ、「いつかは病院以外のところで働いてみたい」と思っていた私をずっと引き留めてくれた大事な言葉だったと、今あらためて思います。


助産師が妊娠・分娩の異常について経験を積むためには、どのような環境が必要でしょうか。
今回の記事からしばらくは、助産師になったばかりの方や助産師学生の皆さんが読んで下さることを期待して書いてみようと思います。


卒後10年ぐらいの基礎を身に付ける時期には、合併症妊娠を含むさまざまな妊産婦さんと関われる環境が大事でしょう。
妊娠・分娩経過に問題のないお産と、適度にバランスをとりながら体験できるような病棟勤務が良いと思います。
一過性多呼吸など小児科管理になるような新生児の看護も体験できることも必要だと思います。


私自身は卒後十数年目まで総合病院で勤務し、その後現在のクリニックに移りました。
ローリスク対象のクリニックに移ることで、総合病院に比べて異常妊娠・分娩を経験し学ぶ機会が減るのではないかということが心配で、当時はだいぶ悩んだ記憶があります。


ところがちょうど世の中の出産年齢が変化し、また精神疾患合併の妊婦さんも増えて、クリニックといってもまったくのローリスクの妊産婦さんではない方が増えました。
分娩時・産褥期の高血圧症も増えている印象があります。どのように対応しどの時点で高次病院に搬送するかという判断も、総合病院での経験が生かされます。
また小児科医がいないクリニックなので、新生児搬送が必要かどうかの見極めも私たち助産師の観察力にかかってきます。
総合病院で小児科入院の新生児看護を経験したかどうかが、助産師間での判断力の大きな差になると感じています。


また経験年数を重ねるにつれて、「妊娠、出産にはこんなこともあるのか」とあらためてひやりとすることも増えてきます。
教科書の片隅にちょっとだけ書かれている確率の低い異常にも遭遇するようになります。


そしてたとえローリスクとはいっても、分娩で比較的日常的に遭遇するのが分娩時出血です。
こういう緊急時の対応は、血管確保ひとつとっても日ごろからやり慣れていることが大事なことはいうまでもないことでしょう。


院内助産という「正常に経過するお産」だけを対象に、しかも月に数人から10人程度の経産婦さんを対象に限定した中で、どれだけ異常を見極める経験や緊急時の対応の経験を積めるのでしょうか。
院内助産のスタッフの条件として「卒後数年以上、分娩介助経験100例以上」としているところがいくつかありましたが、本当はそれぐらいの年数の人たちは、異常をもっと学び異常に対応するための管理能力まで伸ばしてく時期ではないかと、もったいないように思います。


そうした異常への対応能力や経験があって初めて、お母さんたちに信頼される助産師となり得ることでしょう。



助産師のキャリアパスの中での「院内助産」の意味を次に書いてみようと思います。




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