帝王切開のケアを考える 3 <「産後の休養」から「自己効力感」の時代へ>

産後の過ごし方が大きく変化したのは、「出産の医療化」に伴って病院で休養をとれるように鳴った頃ではないかということを「日本のこの一世紀の産後の過ごし方の変化」あたりから書きました。



1960年代から70年代頃でしょうか。


そして「昭和40年ごろの母子保健の課題」に書いたように、そのためには産後の休息の必要性が社会に認識されなければなりませんでした。

今まで紹介してきた資料から考えると、現在70〜80代の女性がこの時期に影響を受けた世代といえます。
あるいは地域によっては60代ぐらいの女性でも、「産後にゆっくり休んでよい」とようやく思える時代に変わったことを実感した方がいらっしゃることでしょう。


出産を施設でして、産後1週間ぐらいは少なくとも自宅から離れた環境でゆっくり休養をとる。
それが手に入るようになった時代は、やはりそう遠い昔ではないのだろうと思います。


そして帝王切開の入院期間の移り変わりに書いたように、いつからかはわかりませんが、1980年代から90年代では2週間という長い入院期間で休養をとれるようになりました。


こちらの記事上野千鶴子氏の本の内容を紹介しました。

どんなにたくさんの高齢者がいても、それらの人々をケアの対象とは考えずに、それに対する責任を社会が負わなければケアの負担は社会に発生しない。育児や介護が私的な領域に封じ込められている間は、誰もそれを「社会問題」とは認識しなかった。


上野氏は高齢者介護について書かれていますが、「高齢者」を「妊産褥婦」に置き換えれば、「産後にゆっくり休養をとる必要性」の認識が広がったのも、産後の休養が「私的な領域」から「ケアの社会化」に変化したと言えるのではないかと思います。


なぜそれが必要か。


それは「ケアを必要とする側がケアをも担う」という状況だからではないかと思います。


親(母親)は新生児の世話(ケア)の担い手ですが、その母親もまた分娩や手術の回復過程としてケアが必要な立場です。


こうして産後の休養が社会に浸透したのもつかの間、1980年代以降の「自分らしさ」「自己実現」あるいは「自己効力感」の広がりは、自らが出産をコントロールし、出産直後から母親として片時も児と離れることなく児の世話をし、母乳だけで育て、産後の回復も自らコントロールしていくかのような強く自信と万能感にあふれた母親像を描かせることになってしまったのかもしれません。


「自己効力感」が強ければ強いほど、理想と現実の差が大きければ大きいほど出産・育児のリアリティーショックが大きくなり、さらなる「自己効力感」を求めてより理想に近づこうと自分を追い込んでいくこともあるのではないかと。


せっかく「産後の休養」が社会に認識されたことを、もう一度、周産期スタッフ側は見直す必要があるように思います。