気持ちの問題 12 <「赤ちゃんと母親が一日中24時間、一緒にいられるようにすること」>

今日の記事は「帝王切開のケアを考える」の続きですが、こんさんのこちらのコメントに書かれていることを考えてみようと思います。


私の場合は、特に息子の事故に最も関係ある条文について反論があります。
「7. 母子同室にする。赤ちゃんと母親が一日中24時間、一緒にいられるようにすること」
こちらは担当の助産師が術後の患者の状態を見ずに、赤ちゃんを置いて行ってしまった原因でもあり、病院側からは医療事故ではないとする根拠になっている条文です。

まず「一緒にいられるようにする」という言葉の強制力があいまいで、「1. できそうならやってみる」「2. 状態をみながらやってみる」「3. 絶対にやろう」のどれにも取れます。

もともと私は「1」だと思い込み、助産師は入院時の説明で「2」だと説明し、実際には「3」だったというようなとらえ方の違いがありました。そのため夜中に授乳で連れてこられたとき、私は体力の消耗を理由に断ることをせず「授乳さえ終わったら、これまで通り助産師が迎えに来てくれるから、耐えよう」という誤った判断をし、担当の助産師は「お母さんも赤ちゃんも(術後感染や呼吸異常がなくて)元気そうだから、このまま同室にしてあげよう」という判断をしてしまったのかもしれません。


この部分は、「母子同室」という言葉が広がり始めたきっかけである、「母乳育児成功のための10か条」の7に対して日頃感じていた私のもやもやをすっきりと整理してくださったような内容でした。



<「赤ちゃんと母親が一緒にいられるということ」の程度問題>


この「赤ちゃんと母親が一日中24時間、一緒にいられること」について、私自身は日本で広がっている「母子同室」とは違うイメージで受け止めていたことはこちらの記事で書きました。

WHOはこのメッセージをどの国のどの女性に向けて出したのでしょうか?


世界の大半を占める、産後赤ちゃんの側でゆっくりすることも許されず、ミルクを足して働きに行かざるをえない貧困の中に生きる女性ではなかったのではないかと思えるのです。


そしてこちらの記事ではこう書きました。

赤ちゃんの授乳に十分な時間がとれない状況は、当然、母親自身が身体的にも精神的にも十分な休養もとれないということです。


方や日本の場合、70年代から80年代の高度経済成長と医療制度の充実によって、産後の女性がゆっくり休養をとることができる時代に入りました。


ところがせっかく手に入れたその休養を、今度は出産直後から赤ちゃんの世話や授乳をひとりでするように追われる時代になってしまいました。
「大半の母親は母乳育児を望んでいる」という理由で。


それは、こんさんが書かれている「1. できそうならやってみる」という気持ちの方が多いのではないかと、日々お母さんたちと接して思います。


「疲れたらミルクで」「疲れたら誰かに預けて」
それぐらいの無理のない気持ちだったものが、しだいに「預けるか、預けないか」「ミルクを使うか、使わないか」の2択へと追い込まれていくのかもしれません。


程度の問題がいつの間にか、白か黒か、良いか悪いかの二分法(リンク先の「10」を参照)になっていきやすい部分ではないでしょうか。


「1日中24時間赤ちゃんと一緒にいる」
お母さん達と、母乳育児推進をするスタッフの解釈の差はかなりあるのではないかと感じています。


<誰がそれを求めているのか>


「いられるように」という言葉は、「気持ち」も含有された表現です。
では、その主語は誰なのでしょうか?


原文では以下のようです。

Practice rooming-in - that is, allow mothers and infants remain together-24 hours a day.

allowをどう訳すか翻訳の知識はないのですが、「可能にする」「許す」「認める」というニュアンスであれば、施設側がそれまでの母子別室や規則授乳の制限を撤廃するという制度上の内容として解釈できるのではないかと。


ところが日本語の訳だと、冒頭のこんさんの感じ方のようにスタッフの「一緒にさせてあげよう」という気持ちに強く影響をしていく表現になっているのかもしれません。


それは本当に目の前にいるお母さんが求めていることなのか。
そして新生児はどうなのか。
大人はまだ気持ちを言葉にして表現できますが、新生児の気持ちは誰にもわかりませんからね。



「母乳育児成功のための10か条」の以下の項目は、「新生児や乳児はそれを望んでいるのか」を検証ができない部分とも言えるでしょう。

6. 医学的な必要がないのに母乳以外のもの、水分、糖水、人工乳を与えないこと。
7. 赤ちゃんと母親が一日中24時間、一緒にいられるようにすること。
8. 赤ちゃんが欲しがるときに、欲しがるままに授乳をすすめること。
9. 母乳を飲んでいる赤ちゃんにゴムの乳首やおしゃぶりを与えないこと。

誰の気持ちのために、ここまで断定した表現になるのでしょうか?





「気持ちの問題」まとめはこちら


帝王切開のケアを考える」はこちら。

1. 帝王切開のケアを考えてみようと思います
2. 母親の「自己効力感」の時代へ
3. 「産後の休養」から「自己効力感」の時代へ

「産後ケアと出稼ぎ」はこちら。

1. 産後ケアと出稼ぎ
2. 途上国からの海外出稼ぎ
3. 母親の経済的要因、社会的要因
4. 赤ちゃんと母親が一緒にいられるということ

「母乳育児という言葉を問い直す」まとめはこちら