帝王切開のケアを考える 5  <帝王切開のケアに関する調査より>

このあたりでも紹介した「助産雑誌」(2014年2月号、医学書院)の中に、「帝王切開をしたお母さんの退院後のニーズと助産ケア」という記事があります。


いばらくこの記事を参考に考えてみたいと思います。


筆者の方が以前実施した調査をもとに書かれた記事のようです。

筆者は約5年前に、我が国で帝王切開分娩の母親に対して行われている医療処置と看護ケアを把握することを目的として、「帝王切開分娩の母親に対する看護ケアに関する調査」を実施しました(文部科学省研究費助成若手研究B、課題番号18890215の一部)。有効回答が得られた19床以上の分娩施設541施設からの回答を分析した結果、予定帝王切開術後の平均的なスケジュール(図)がわかりました。その特徴は、術後の積極的な鎮痛対策により早期離床と早期からの母子接触が可能になったことと、術後の在院期間の短縮でした。また、お母さんにはクリニカルパスに沿って、標準的な身体ケアが提供されていましたが、精神的ケアについては、看護者は必要性を感じながらも追いついていないということもわかりました。


まずタイトルには「助産ケア」とあるのですが、実際の調査のタイトルには「看護ケア」とあります。何か意図するところがあるのでしょうか。
そのあたりはまた後で考えてみようと思いますが。


さて調査対象の「19床以上の分娩施設」ですが、「病院は20床以上」「診療所は19床以下」ですから、この調査には19床の産科診療所が含まれていることになります。
原文を読んでいないので19床で線切りした理由はよくわからないのですが、「早期退院」も総合病院と産科診療所では意味が異なってくるのではないかと思います。


<鶏が先か、卵が先か>


「図  予定帝王切開術前後の平均的なスケジュール」を見ると、手術前日に入院し、手術後8〜9日目に退院になっています。
入院から退院まで平均して10〜11日あたりのようです。


「帝王切開の入院期間の移り変わり」に書いたように、1980年代から90年代にかけては手術後14日目の退院でしたから、術後の入院期間が数日ぐらい短縮している傾向にあるようです。


その理由には、1990年代から徐々に病床削減、早期退院の方向性が押し進められて来たので、クリニカルパスが導入されました。


2000年代に入って分娩施設の減少と一施設の分娩数の増加によって入院日数を減らす必要性がでました。
産科診療所は急性期病院のような病床削減や入院期間短縮をすすめる必要はない施設であったのが、分娩が集中することで入院期間を短縮せざるを得なくなったのではないでしょうか。


もしさらに分娩施設の集約化がすすめば、帝王切開術後5日目退院ぐらいになる可能性もあることでしょう。


筆者は入院期間の短縮のメリットを以下のようにとらえているようです。

 当事者であるお母さんの立場で考えると、積極的な鎮痛対策は術後の創痛を軽減し、身体的苦痛の軽減につながります。また、早くから赤ちゃんに授乳や必要な世話を開始することで、母乳育児や愛着行動、児への愛着形成が促進されます。新しいエビデンスや医材の進歩により、シャワー浴も早期にできるようになり、術後点滴や抜糸も不要である場合もあります。つまり、術後の疼痛コントロールが一般的に行われ、医療処置が簡素化されていることで、術後のスケジュールが早期化しているともいえるでしょう。

 その結果、母子は慣れ親しんだ家庭環境と家族のもとに早く戻り、お母さんなりの育児を始めることができるというわけです。帝王切開後であっても、経膣分娩と同じようにほとんどのお母さんはご家庭に戻られるとほっとするものです。このように、産後のスケジュールの早期化に伴う入院期間の短縮にはメリットがたくさんあります。


「積極的な鎮痛対策」について、(図)では「持続的な硬膜外麻酔」が1例としてあげられていますが、日本の分娩施設ではかなり特殊なのではないでしょうか。
経膣分娩後の創痛への対応方法もまだ標準化されていない状況ですし、創痛が強い人への標準的看護もまだまだ模索途中です。


帝王切開術後の方の痛みについてもその程度や持続期間、とくに退院後にどのように影響しているかという全体的な調査さえ目にしたこともありません。


同じ記事の中で筆者は、デメリットについて「お母さんたちは不安いっぱいで退院する」と以下のような点をあげています。

傷が痛いとは聞くが、どの程度か。傷はきれいに治るのか。いつごろから通常の生活に戻れるのか。動くのもままならないのに育児ができるのかという不安があります


確かに術後のスケジュールの早期化は進んだけれども、それはお母さん達がそれだけ動くことが可能だからというよりも、先にスケジュールの早期化の方針があって、お母さん達が適応させられているのではないでしょうか。


「術後のスケジュールの早期化」は、お母さん達のニーズに声を傾けた結果とは言えないような気がします。