帝王切開のケアを考える 1 <帝王切開のケアを考えてみようと思います> *2015年10月18日追記あり

はじめてこんさんからコメントをいただいたのは2015年5月9日でした。


「早期母子接触」を実施している最中に新生児に異常が起きたという方と、私自身は初めてお話する機会でした。


「早期母子接触」に限らず、もちろん分娩施設内で赤ちゃんが突然亡くなることもあります。
それは非常にまれなことで、おそらく大半の周産期スタッフは一生経験しなくて済むような確率かもしれません。



でも、もし現実にそのような事故が身近で起きた時にどのような対応が必要なのかと、ニュースや当事者の方々の想いからさまざまな状況を想像するようにしてきました。



私はあの新卒の夜勤中の出来ごとを、今も自分の未熟さへの罪悪感のようなものとともに思い出しますし、詰め寄られた御家族の表情も思い出します。
そしてあの御家族はどんな思いでその後を過ごされたのだろうと本当に申し訳なく、でももう時間を巻き戻すこともできないので、二度と同じことを繰り返さないようにするしかありません。


でも「二度と繰り返さない」と一言でいえるほど、それは簡単なことではないことをひしひしと感じています。


新たにたくさんの周産期看護スタッフが毎年誕生し、その人たちに「赤ちゃんは突然亡くなることもある」と伝えることがどんなに難しいことか。
あるいは経験もそこそこ増えてプライドが強くなったスタッフの、脇の甘さを気づかせることがどんなに難しいことか。


<入院中の母親の責任とは>


さて、今もこんさんと往復書簡のようにコメント欄でやりとりさせていただいていますが、正直なところ、こんさんから伝わってくるスタッフの対応が私の想定していたものとは大きく違うことに戸惑うことが多々ありました。


その中で一番気になっているのが、こちらのコメントに書かれていたことです。

通常は赤ちゃんを渡した状態では母親に責任があるし、異常があればナースコールするよう伝えたというのが看護師の意見でした。

そして同じコメントでこんさんが病院側に対して感じたことを以下のように書いています。

全体的に、赤ちゃんの責任は母親にあるという正論が、分娩後という特殊な前提を無視して論点をずらし事故に繋がっているように思います。

ここまで母親の責任のような言い方をすることはないのではと、この時点では半信半疑でしたが、こちらのコメントで、こんさんが病院側との再発防止策の話し合いをされた様子を教えてくださり、その具体的な内容がわかりました。

前回の話し合いで私が「帝王切開後の母親に多くを求めないでほしい」と申し上げたことが看護師長にとって衝撃的だったそうです。私が「手術前夜は眠れず、術後も2時間おきの授乳と処置でほとんど眠っていない。さらに朝方ようやく眠った矢先に無理矢理起こされている。なぜ私が元気だと思ったのですか」と尋ねたところ、師長は「産後の母親は短い時間でも休養がとれるようになっている。なので寝起きは元気になっていると担当の助産師も考えていた」と言いました


なるほど、これがこんさんの「赤ちゃんの責任は母親にある」という印象になったのだとわかりました。


そして以前「帝王切開当日から母子同室でつらかった」というお母さんがいたけれど、その背景にはこういう考え方が周産期スタッフに出始めたからなのかとわかりました。
また、当日からの母子同室をしていなくても、術後1日目や2日目でも母親に赤ちゃんの世話をまかせっきりにするスタッフが出現してきた理由かもしれないと。


私は今まで「母体が十分に休養をとって術後の回復が正常に経過すること」「出生後、新生児が胎外生活に適応し正常に経過すること」そして「児の世話に慣れて退院できること」という目標に向けての段階的にケアをしていくことが「標準的な帝王切開術後のケア」だと思っていたのですが、それとは違うケアが広がりだしているのかもしれません。


ということで、しばらく不定期ですが帝王切開術後のケアについて考えてみようと思います。




<2015年10月18日追記>


コメント欄にこんさんが「論点ずらし」と感じられたことについてもう少し詳しく書いてくださいました。合わせてお読み頂ければと思います。



こんさんのコメントから「帝王切開について考える」を書きました。その小まとめはこちらから。
そして帝王切開で生まれた新生児について、以下のように「帝王切開で生まれる」を書きました。

1. 生まれ方で差があるのか
2. 生まれる直前の胎児心拍モニタリングがない
3. 産道とはなにか
4. 帝王切開と新生児一過性多呼吸
5. 産道を通過しないことによる違い
6. 「帝王切開と新生児の腸内細菌叢」より
7. 早産児と正期産児の葛藤と矛盾
8. 「帝王切開分娩と腸内細菌叢」より
9. 「帝王切開出生児に理想的な腸内細菌叢を定着させるには」より
10. 帝王切開で生まれた新生児の経過の特殊性は観察されていないのではないか