10年ひとむかし 8 <夢の使い捨ての布のような紙のようなもの>

赤ちゃんのお尻ふきについて考えていたら、「不織布(ふしょくふ)」という言葉に突き当たりました。


その記事で紹介した一般社団法人日本衛生材料工業連合会の「ウエットテイッシュ・紙おしぼりについて」の「Q8.『ウエットテイッシュ』の歴史についておしえてください」の中にこう書かれています。

ウエットテイッシュは、赤ちゃんのおしりふきとして1970年代初頭にアメリカで誕生しました。日本では1973年に大手製紙メーカーがボトルタイプのウエットテイッシュとして発売。それは不織布に薬液を含ませ、筒型のプラスチック容器にいれるという、現在一般的になっている製品とほぼ同じ形態のものでした。しかし70枚入りで800円前後と、当時としては高額商品だったこともあり、市場には受け入れられず、3年後の1976年には販売中止となってしまいました。

しかし、1978年、育児用品メーカーから衛生面に配慮した筒型容器のウエットテイッシュが発売され大人気となり、ウエットテイッシュの市場は大きく成長しました。


現在では、入院される方の多くが持ってこられるあの筒型のウエットテイッシュも、一度は販売中止になっていたのですね。
たしかに、1970年代終わりごろに「70枚で800円」のウエットテイッシュは割高感が強かったことでしょう。


それでも、この説明では1978年にウエットテイッシュが広がり出したように書かれているのですが、日常的に使うというよりもお弁当や外食のお手拭きがこうした使い捨てのものになっていったぐらいだったような記憶です。


<「不織布」という言葉を初めて聞いた>


赤ちゃんのお尻ふきにしてもウエットテイッシュにしても、「紙のような柔らかさでありながら、水分も保持できる」というのは、1970年代までは身近にはありませんでした。
強いていえば、書道に使う和紙が「水分がついても破れない紙」でしたが、やはりお手拭きなどにするには固すぎるし、水分が多ければボロボロになってしまいます。


初めて「不織布」という言葉を聞いたのは、1970年代終わり頃、看護学生の時でした。


病院では検査や処置をする時に、消毒液を使ったり、あるいは体からの血液や浸出液などがシーツにつかないようにする必要があります。


そのための使い捨てのシーツが不織布でした。


「バイリーンシーツ」と呼んでいたのですが、表面は布に似た柔らかさで裏側をビニールのようなものでコーテイングしてあるので防水性がありました。
汚れたらそのまま使い捨てにできました。
それまでは、ゴム製のシートを敷いてその上に布製のシーツを敷き、何度も洗って使うしかありませんでした。


といっても、当時はまだまだバイリーンシーツも高価でしたから、使うのは手術直後などに限られていましたし、少しの汚れなら洗い直していました。


1970年代終わり頃に病棟で見た「バイリンシーツ」は、日常生活では使うことも見ることもない夢のような布に感じたのでした。


<不織布とは>


あれから30年以上過ぎて、不織布を加工した便利な使い捨て製品なしには医療機関は成り立たないといっても過言ではないですし、日常生活でもウエットテイッシュや掃除に使うウエットクロス、眼鏡やパソコンを拭く使い捨てのクロスなど、不織布が身近なものになりました。


その「バイリーンシーツ」を作った日本バイリーン株式会社のHPに「不織布について」というサイトがあり、「不織布の歴史」が書かれています。


繊維を糸や布に加工する技術を発見する以前の人類は、動物の毛皮や樹皮をほぐしたものを身にまとっていました。繊維(樹皮)を織ったり編んだりせずに布状にする。まさに不織布の原形です。
また、羊の原産地ヒマラヤ山脈からチベットにかけて遊牧民が、羊の体の毛がもつれているのを見て、これを人工的につくることを試みたのが最初のフェルトだと言われています。フェルトも不織布の一種ということができます。


なるほど、羊の毛がもつれているのを見てのひらめきが、今日の赤ちゃんのお尻ふきにも活かされているのかもしれないわけですね。
気が遠くなるような長さをかけて、便利になったものです。


1920年代、ドイツのフェルト業者が毛屑や紡毛などを固めてフェルトの代用品をつくりました。これが工場で生産された不織布の第一号です。その後ドイツやアメリカで研究が進められ、第二次大戦で進歩を遂げた合成繊維や合成ゴムの材料を応用して、今日の不織布と同じようなものがつくられ始めました。
日本で不織布の生産が始まったのは、1954年に国内企業が米国から乾式不織布製造装置を導入してからのことです。その後、各社が次々と不織布の生産を開始しました。


看護学生の時に、病棟実習で初めて見たバイリーンシーツ。
あれは不織布のあけぼのの時代とも言える時代だったようです。





「10年ひとむかし」まとめはこちら