「母子同室」という言葉は、私が看護学生で母性看護を学んだ1970年代終わりの頃にはまだありませんでした。
産まれたばかりの赤ちゃんというのは新生児室にいて、お母さんたちが時間ごとに授乳室に集まって授乳をする。
そういう方法を学び、何の疑問も感じずに、「新生児を世話をするというのはそういうものだ」と学習したのでした。
すでに私の世代は子どもが2人という家庭が多く、周囲で赤ちゃんを世話をしている人をみることさえないままに看護学生になったのですから、いたしかたないことだったのですね。
看護師になってから数年後に助産師学生になった頃、当時の教科書を読み返してもまだ「母子同室」という言葉は使われていないのですが、どこからともなくその言葉を知っていました。
そして卒業後に勤務した民間病院は、全国でもまた珍しい「母子同室」を取り入れ始めていました。
考えてみれば、この数年間の変化はコペルニクス的転回ともいえる変化だったと、思い返しています。
もう少し長い視野で考えると、わずか半世紀程の間に、コペルニクス的転回が2回起きたと言えるのかもしれません。
というのも、当時、一緒に働いて来た70代の大先輩の助産婦さんたちは、彼女たちが産まれた頃は新生児室なんてなくて家庭で産まれていたわけですから、「新生児を集めて世話をする」こと自体がそれまでの価値観を180度変える世の中の変化だったのではないかと思います。
その大先輩の助産婦さんたちが、病院の中で分娩介助をし、病院の中でお母さんと赤ちゃんの保健指導をするようになって20数年ぐらいで、こんどは「新生児室に集めるのではなく、母子同室へ」と変化したわけです。
では、180度の変化を2回繰り返したら、元の位置に戻ったのでしょうか?
なんだか過酷な、出産直後からお母さんと赤ちゃんだけという、人類が今まで経験したこともない全く異なる状況になってしまったのではないかと思えるのです。
「昔から出産直後はお母さんと赤ちゃんはいつもいっしょにいた」というイメージだけで、「母子同室」という言葉になんの疑問を持たなくなってしまっているのかもしれません。
でもその周囲には、身の回りの世話をする人たちがいたのではないでしょうか。
母子一組に最低でもひとりの手伝いが。
「母子同室」という言葉を聞くと、世界中のいろいろな文化の中でも、もしかしたらありえないほど孤独で実験的なことが現代の出産直後の女性に求められてしまっているのではないかと思うのです。
ということで、しばらく母子同室という言葉を問い直してみようと思います。
こちらの記事に「母子同室という言葉を問い直す」をまとめていきます。
1. 以て非なる言葉
2. 預けたら負け
3. いつ頃から、どのように広がったのか
4. 母子同室とともにある母乳代替品のマーケティングに関する国際基準
「実験のようなもの」まとめはこちら。