助産師の世界と妄想 8 <誰が新生児訪問をしてきたのか>

新生児訪問が始った1960(昭和35〜)年代というのは、ちょうど出産が病院・医療機関で行われるようになる大きな変化の時代でした。


それでもまだ半数近くは自宅で出産していましたから、分娩に関わった助産師は産後も何度か訪問して新生児の様子をみたり、育児方法を教えることも大事な業務でした。


前回の記事で福井県看護連盟の「保健師の役割の変遷」を紹介しましたが、その中で未熟児訪問をした保健婦が「それこそ虫の息みたいな赤ちゃんを見た時には助産師さんに相談して」とあるように、受診できない母子のために、訪問事業が始る前から保健師助産師は協働する機会は多かったのではないかと思います。


それがこちらの記事で紹介した「助産師基礎教育第3巻 周産期医療の質と安全」(日本看護協会出版会、2009年)に書かれている以下の背景だったのではないかと思います。

これらの事業委託の受け方も、所属する助産師会が調整している場合もあれば助産師個人として請け負っている場合もある。

昭和30年代、まだ助産師の大半が地域で活動し助産師会に所属していた時代から、わずか10年ほどで助産師の多くが病院や診療所で働く時代に大きく変化しました。


新生児訪問などの地域での活動を担う助産師は、現在どのような助産師でしょうか?


<新生児訪問指導員の条件>


さまざまな自治体の募集要項を見ても、大ざっぱに「助産師」という条件しか書かれていません。


とくに2009年に始った「こんにちは赤ちゃん」全戸訪問事業では、訪問者の範囲も広がりました。
新生児訪問は以前は保健師または助産師でしたが、「専門職・非専門職」の枠組みに拡大されました。


「子ども総研の研究活動紹介(1)『こんちは赤ちゃん事業』に関する研究について」の「全市町村における実施状況調査」では以下のようにその違いが書かれています。

訪問員は、市区町村の常勤職員である保健師である場合、特に資格は持たないが一定の研修を受けた子育て経験者である場合など、自治体により様々です。

訪問員が保健師助産師・看護師などの専門職である場合は、居室まで入って赤ちゃんの様子を確認し、訪問に要する時間が長い一方、母子保健推進員・愛育班員など専門職でない場合は、玄関先で、お母さんと短時間話をする傾向があるようです。

助産師というだけで「専門職」であり、私や友人の経験ではそれまでにどのように働いてきたかなどは問われることはないようです。


「看護師お悩み相談室」の「新生児訪問員」「自治体からの嘱託で行う乳児訪問はどのくらいの収入が期待できますか」の相談者のように、臨床経験が少なかったり仕事から長く離れていても、空きさえあれば助産師として採用されることでしょう。



助産師自身の子育て経験を活かせるかもしれませんが、それは「個人的な体験談」に過ぎないことが理解されず、「自分がやってうまくいったこと」「自分がやって『効果があった』こと」がそのまま思い込みの形でお母さんたちにアドバイスされる可能性が多いにあります。


またこうした新生児訪問指導員になる助産師の質を監督するような機関も、いまのところありません。


かつては、「開業助産婦の訪問指導体制の確立のため再教育及び訓練を行う」という児童局長通知を実行する機関であった日本助産師会「日本助産師会のあゆみ(歴史)」より)も、日本社会の地域が大きく変化したことに対応しきれず、開業を守るために積極的に代替療法を取り込んでしまいました。


新生児訪問指導員として活動している助産師の実態と、何を「指導」しているのかについて早急に調査される必要があるのではないかと思います。





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