新生児のあれこれ 53 <「沐浴指導」の変遷>

「沐浴指導」、赤ちゃんをお風呂に入れる方法の説明は、今でも周産期看護や助産の保健指導の重要な一つの位置づけのようです。


「ようです」と書くのは、私自身はそこまで手取り足取り、しかもお母さんたちがかえって緊張するような方法を説明しなくてもいいんじゃないかと、内心は思っています。


「今から赤ちゃんのお風呂の入れ方を説明しますから、沐浴室にいらっしゃってくださいね」というと、産後のお母さんたちは、あちこちの痛みをこらえながら緊張した面持ちで集まってきます。


赤ちゃんに慣れている経産婦さんでも、けっこう緊張しているようです。
「久しぶりだから、忘れちゃったし」「実は、一人目の時には1回も私はいれたことがない」というあたりです。


経産婦さんに話を聞くと、かなりの割合で誰か他の人が入れてくれていたようです。
そういう話が出ると、私は「(しめた)」とばかりに、「誰か他にしてくれる人がいれば、お任せしてくださいね。産後の腰痛が出やすい時期のお母さんたちには負担がかかるので、お母さんの仕事ではないと思います」と話すようにしています。


それだけで、お母さんたちはこころなしかリラックスした雰囲気になります。


沐浴というのはお湯の準備から片付けまで、本当に腰に負担のかかる作業です。


今は写真や動画でいくらでもよい説明資料が作れる時代なのですから、御家族向けに全国で統一したものを作成して、「それを参考にしてみてくださいね」で済むのではないかと思います。


<微に入り細を穿ちすぎる説明内容>


東南アジアのあちこちの村をまわった時に、日なたで温めた井戸水の入ったたらいの中で、気持ち良さそうに沐浴をしてもらっている赤ちゃんの姿をよく見ました。
産婦さんの姉妹や親戚の女性が、皆、慣れた手つきで赤ちゃんを洗っています。
たらいと石鹸、そしてタオル代わりの布だけというシンプルな準備物品です。


そうそう、これなのですよね。
私もしてもらった家庭での沐浴の風景です。


助産師学校の授業で緊張した内容というと臍の緒を切ることと、この沐浴があります。
今は大好きな沐浴ですが、学生にとっては細かな手順を一つでも間違えると減点される緊張の実習でした。


たとえば、「目から先に拭く」を忘れて額あたりから洗い始めると減点、「顔が終わったら、首、首が終わったら、沐浴布を片方の手からとって腕から脇の下」といった順番をきちんとこなさなければいけないのです。


「(どうだっていいのに。きれいになればよいことなのに)」と内心、反発しながらも冷や汗をかきながら順番を覚え込みました。


卒業してから、もっと自由に沐浴ができるかというと、厳しいスタッフがいると目を光らせているのですね。「順番が違う」と。学生も受け入れていましたから、泣く泣くまた「基本通り」の方法をするしかありませんでした。


卒後2〜3年目に、母乳のことで自主的に訪問させてもらっていた家で、「沐浴を手伝って欲しい」と言われて見に行ったことがあります。
実母が手伝ってくれていましたが、二人掛かりで準備から片付けまで小一時間かかっていました。
退院して沐浴をするというのは、こんなに大変なことなのだと理解できました。


「我が家流のやりかたでいいですからね。皮脂の多いところとお尻は石鹸でよく洗ってね。今日うまく洗えなかったら、明日洗うぐらいでいいですからね。疲れた時には、一日ぐらい沐浴をしなくてもいいですからね。手を抜きながらやってね。お父さんの帰りが遅い時間でも、入れるのはお父さんでもいいですよ」
最近の説明はこんな感じ。


<やってもやらなくてもかわらない説明が多すぎる>


私たちの学生の頃は「目頭から目尻に向かって拭く」だったものが、最近は「目尻から目頭へ向かって拭く」になったそうです。
理由は、「涙は目尻から目頭に向かって分泌されるから」とのことで、一瞬納得しそうになりましたが、新生児の顔を「ガーゼで拭く」必要そのものがないのではないかと思います。
手のひらで普通に顔を洗うようにすればよいのではないかと思うのですが。


反対に、止めたほうが良さそうだと思っていたことが、最近主流になってきてほっとしています。
綿棒で耳や鼻を拭くことです。
「新生児だって、あれは痛いし皮膚を傷つけるだろうな」と。
でも、今でもその方法をしているスタッフや施設もあるようです。


臍の消毒や臍の処置についても、新旧さまざまな考えが臨床ではまだまだ混在していて、他の施設ではすでに止めて問題がなかったことが他の施設に移るとまだされていて、本当に徒労感。


そして、それをお母さんにどう伝えるか。
「こういう方法だったけれど、最近はこういう考え方もあります」と、説明が際限なく増えています。


最近では、「上の子はドライテクニックをしている病院でした」という方もぼちぼちいらっしゃって、そういう方は沐浴をしていることに対して「まだ古い方法なのか」と微妙に不信感をもたれる印象があります。


ドライテクニックの始まりあたりから説明して、それをした場合としていない場合の検証がされていないこと、「母子相互作用とか母乳分泌がよくなるといった話は眉唾」まで説明すると、数分ぐらい時間がかかります。


世界中で、もっとのんびり適当に沐浴がされているのに、日本はなぜこんなに堅苦しい説明ばかりになるのだろうと、あのたらいの中で気持ち良さそうに入っていた赤ちゃんを思い出すのです。


だれか「現時点での標準的な沐浴・臍処置・スキンケアに関しての考え方と、家での簡単な沐浴方法」を動画にして、小児科学会とかのサイトにアップしてくれないかなと思っています。




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