新生児のあれこれ 18 <ドライテクニック>

前回の記事で書いたように、2000年前後から分娩直後の第一沐浴を実施せずにさっと血液などを拭き取るだけにし、翌日以降沐浴をすることが一般的になったと記憶しています。


最近は、さらに退院まで沐浴をしないという施設があることを耳にするようになりました。


<ドライテクニックとは>


「ドライテクニック」として取り入れてるいくつかの施設の説明内容を紹介してみます。

ドライテクニックとは、赤ちゃんの胎脂をできるだけ残すために、生後は皮膚についた血液だけを拭き取り、4〜5日間は沐浴をしない方法です。
メリットとしては、1.赤ちゃんの体温保持、2.沐浴による体力消耗のの予防、3.生理的体重減少の抑制、4.黄疸の減少、5.乾燥などの皮膚トラブルの減少があります。

だいたい上記の内容がドライテクニックを取り入れている施設の説明に共通して書かれていますが、それ以外に以下のような内容もありました。

・胎脂は抗菌作用があると言われています。

・胎脂のにおいが母児の絆を深めるのに役立つといわれています。

・羊水のにおいを残します。赤ちゃんは羊水のにおいで安心します。

・胎脂の匂いによって、乳汁分泌が増加する。

・お臍が早くとれる。沐浴で水に濡れる機会がなくなり、乾燥が早く感染の危険性も少なくなる。

上記以外、「沐浴による疲労が少なくなる」ことや「黄疸が減少すること」から結果的に「母乳栄養によい」ということが書かれている施設もありました。


<ドライテクニックの考え方に対する疑問>


ドライテクニックについての研究のレビューが見つからないので、上記のような説明がどれだけ「本当」なのかよくわかりません。


また、退院まで沐浴をせずにドライテクニックのみという施設が、現時点で国内の分娩施設でどれくらいの割合なのかという全体像もわかりません。


ですから全く私個人の疑問です。


胎脂はどれくらいの期間、皮膚に残っているのでしょうか?


私の勤務先では、出生1日目に第一沐浴をしています。出生後数時間もすると、ラード状に皮膚に残っていた胎脂も、腋や股関節などの空気に触れにくい部分を除けばすっかり乾燥しています。


驚くのは、胎脂の付着力の強さです。
腋・股関節あるいは女児の陰部に残った胎脂は簡単には落とせません。そういう部分の胎脂は、状況によっては1ヶ月ぐらいまで残っているほどです。


あるいは一見乾燥していても、新生児の頭髪を洗うと、1度石鹸で洗ったぐらいでは胎脂は簡単には落ちずに翌日の沐浴でもまだヌメヌメとした感触が残っているほどです。


沐浴をしたからと言って、一度の沐浴で完全に胎脂が無くなっているわけではないということでしょう。


ドライテクニックを取り入れている施設では、「生後4〜5日目には沐浴」「退院後は家庭で沐浴するように勧め」ているようです。


沐浴開始の2〜3日の差で、体重減少や黄疸、あるいは母乳栄養に差が出るほどの結果になるのだろうか?というのが素朴な疑問です。
そして、その関係が明らかにされた信頼度の高い研究はどれほどあるのでしょうか?


新生児の皮膚とスキンケアに関しては少しずつ新たな研究がされているようなので、その点ではもしかしたら今後「沐浴の開始を遅らせたほうがよい」などの新たな考え方が出てくる可能性はあるかもしれませんが。


●「胎脂や羊水のにおい」と新生児の安心感はどのように検証できるのでしょうか?


「新生児は羊水のにおいで安心感を持つ」から、出生直後に手についた羊水を拭き取らないことを看護手順としている施設があることをこちらの記事で紹介しました。


胎脂や羊水のにおいで新生児は安心する。
それは検証可能なことでしょうか?
いえ、大人の想像の域を越えることはできないことだと思うのです。


ドライテクニックで、何日も胎脂や羊水のにおいは残るものなのでしょうか?
またドライテクニックをすることで、「絆が深まる」とか「母乳栄養によい」と効果を謳うことはどうでしょうか?


反対に、「ドライテクニックをしなかったからその効果は得られなかった」ことを実証できるのでしょうか?


●新生児の「疲労」はどのように検証されるのか?


沐浴によって、新生児はどれくらい体力を消耗するのでしょうか?また体力の消耗というのは、どういう点から観察されるのでしょうか?


たしかに沐浴のあとよく眠ることはあります。
沐浴による疲労を主張する側は、それを「疲れたため」と受け止めている可能性があります。


ただ、ほとんどの施設が通常午前中に沐浴をしていると思います。
沐浴をしてもしなくても、だいたい10時11時を境にして新生児は深い眠りの時間に入っていく印象があります。


もし「新生児の疲労」がすでに定義されて客観的に表現できたとしても、その疲労と生理的体重減少や黄疸の程度は関係することは実証されているのでしょうか?


この3点が、ドライテクニックのメリットを読んで気になる点です。


ドライテクニックについて、もう少し続きます。




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