発達する 4 <「老いる」ことをどうやって学ぶのか>

日本老年学会・老年医学会が高齢者の定義を75歳以上とする提言を出したというニュースに、「ああ、これでまた年金受給開始年齢が上がり、まだまだ働き続けなければいけない世の中になるのか」と最初に思いました。


私たちの親の世代は60歳定年・60歳から年金支給開始でしたから、「その世代にとって50代半ばというのはあと少しでフルに働かなくて済むという安堵感のほうが大きかったのかもしれない」と最近思います。


まだ仕事はどんなに忙しくてもこなせているし、まだまだ気力も体力もあるつもりですが、リタイアしてゆっくりしたいなあという気持ちがだんだんとでてきたこの頃です。
でも、私たち世代はあと10年は働かないと生活がたちゆかなさそうです。
いえ、この提言が社会に受け入れられて何かが大きく変化したら、あと20年は働き続けなければならないかもしれません。


高齢者の新定義「75歳以上」 
日本老年学会、日本老年医学会が提言
m3.com編集部 2017年1月6日(金)配信


日本老年学会と日本老年医学会が1月5日、都内で会見し、新たな高齢者の定義を提言。現在「前期高齢者」「後期高齢者」と定義されている65−74歳、75-89歳をそれぞれ「准高齢者」「高齢者」とすることなどを示した。


各調査で5−10歳の「若返り現象」を確認


提言のまとめに当たり、両学会は2013年に合同ワーキンググループを設立。国の各種統計調査データーベースなどを用いて(1)疾病受療率、死亡率、要介護の認定の変化、(2)体力・生活機能の変化、(3)知的機能の変化、(4)歯数の変化、(5)国民の意識、(6)社会的見地ーの項目を中心に検討を実施した。それによると、10−20年前と比較して現在の高齢者においては加齢に伴う身体機能の出現から5-10年遅れる「若返り現象」が見られていること、従来、高齢者とされてきた65歳以上においても特に65–74歳の前期高齢者では心身の健康が保たれ、活発な社会活動が可能な人がほとんどであるとの知見が得られた。


会見では、内閣府が2014年度に行った高齢者の日常生活に関する意識調査も紹介。「高齢者とは何歳以上か」との問いに対し、「65歳以上」と回答したのは男女とも5%程度に過ぎず、男性では「70歳以上」、女性は「75歳以上」との回答が30%と最多を占め、一般の人の意識も変わりつつあるとの見方を示した。


65−74歳は「准高齢者」


新たな提言で、両学会は65−74歳(従来の前期高齢者)を「准高齢者」、75−89歳(後期高齢者)を高齢者、90歳以上を「超高齢者」と定義するのが妥当との見解を示した。


提言の背景を説明したWG座長の大内尉義氏(国家公務員共済組合連合会虎ノ門病院院長)は「"高齢者"の定義の年齢層を引き上げることは、健康長寿延伸の成果と捉えることができる」と指摘。65歳以上を新たに「准高齢者」と定義することが長寿国日本において元気で活動性の高い年齢層が広がったことへの認知を深める契機となると話した。また、「准高齢者の多くは社会の支え手、モチベーションを持った存在であり、自主的な社会参加をさらに促す契機となれば、社会の支え手を増やすことができる」とも述べ、今後、日本において生産人口減少が加速する実情を踏まえ、国民的な議論が高まることへの期待も示した。


実地臨床への影響は?


新しい高齢者の定義の実地臨床での捉え方について、日本老年医学会副理事長の秋下雅弘氏(東京大学加齢医学講座教授)は「高齢患者を診療していて感じる問題、行うべき介入が従来の65歳以上を"高齢者"とひとくくりにしていることで色々な矛盾があると感じていた。65−74歳を"准高齢者"とすることで、中年期の延長として生活習慣病を抱えているけれども、まだ脳血管疾患を発症していない、高血圧や糖尿病の治療といった予防介入をしっかり行うべき対象となり得る。そして75歳以上になると、それまでとは少し違った配慮が必要になる。今までの高齢者の分け方を変えることで、医療提供の考え方が割とシンプルになるのではないか。たとえば、栄養指導の面でもそれまでの制限を中心にしたものではなく、75歳以上の方はしっかり栄養を取ってむしろ筋肉が落ちないようにする視点が重要になるというようなことと私は捉えている」と説明した。


日本老年医学会理事長の楽木宏美氏(大阪大学老年・総合内科教授)は「医療現場では、現状の65歳という高齢者のカテゴリーを全く無くして診療していいかというと、少なくとも病院に来るような方では難しいと思う。まずは、今回の提言を社会がどう捉えるのか、議論を期待したい。


たしかに医学的な視点でみれば、「健康長寿延伸の成果」として高齢者の定義を変えられるほどの変化とみることができるのかもしれません。
本当に私が看護職になってからの30数年を振り返っても、元気なお年寄りが増えましたからね。


ただ、「乳児」「幼児」「小学生」「中学生」あるいは「青年期」といった年齢の区切りで一般化できないのが、成人期の幅広い個人差ではないかと思います。
数年ごとで「高齢者」のカテゴリーを細かく分ける意味が、正直なところ私にはよくわからないのです。


高齢者だけでなく、どの世代にも「自分は若い」 という実年齢と主観年齢のズレがあることを考えると、意識調査もあてにならなさそうです。
80代の母の行動を見ていても、身体能力と判断能力の衰えがすすんでいるにもかかわらず、時に無謀とも思えるような重大な判断を自分でしようとします。
「老人は自分を老人と思っていない」、むしろその認識によるズレが、生活上で様々な混乱を起こしているのではないかと思います。


医学的な年齢の区切りよりも、「老いることに伴う行動や判断とはどういう傾向があるか」を学ぶ機会の方が高齢者になっていくには必要なのかもしれませんね。



「皆さんはまだまだお若いから、もっと働いてもっと税金や保険料を納めて、年金の受け取りはもっとあとで、もっと家族の介護もして社会に貢献してください」
そんな方向になるのはちょっと勘弁。
「自分はまだまだ若い」と思い込んでいると、思わぬ社会の落とし穴にはまりそうな予感がするニュースでした。




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