事実とは何か 44 <計測誤差>

歩数計を持ってみると、どれだけ歩いたかを測定する楽しさにけっこうはまりますね。
ただ、「一日に何歩歩くか」で検索すると、だいたい「一万歩」という数値が一人歩きしてきた印象があって、さらに2016年の「『1日1万歩で健康になる』は大きなウソだった」(東洋経済ONLINE)の影響か、そのあたりから「1万歩は間違いらしい」という内容の記事が検索にあがってきます。


いろいろな意見を読んでも私にはどの程度歩くのがよいのかよくわからないのですが、まあ、何ごとも数値に取り込まれてはまりずぎないことと、年齢と個人差に合わせた運動負荷を見極めること、あたりが大事なのかもしれませんね。


今日の話は、「どれだけ」という数字の話ではなく、「その数値はどのように測定されたか」です。


というのも、歩数計をつけてみて気になったのが、通勤で同じように歩いているのに数百歩ぐらい違っていることがあったり、時々歩数計を見ると歩いた分が正確にカウントされていなかったのではないかということが時々ある印象です。
歩数計なら正確に歩数を測定できるかというと、誤差をうむような状況があるようです。
歩数計の問題かもしれないし、歩数計の付け方なのかもしれません。



<体温測定方法の変化>


こちらの記事で、「表現しきれない体の変化(体感)をできるだけ数値などで客観的に示すことができること、しかも誰が測定しても正確にできること、そしてその蓄積されたデーターで治療やケア方法が標準化されていく」と書きました。


30数年ほど医療現場にいて、本当に多くの医療機器が次々と開発されてきた時代を目の当たりにして、80年代ぐらいから90年代ぐらいにかけては医療技術革命の時代と言ってもよいのではないかと思います。


大げさに聞こえるかもしれませんが、私にとってその象徴的な医療機器が電子体温計の登場です。


80年代前半までは、水銀の体温計しかありませんでした。
測定に10分かかることと、割れやすいことが難点でした。
朝の検温では患者さんに体温計を配ってから10分後に行くのですが、寝ぼけているのでうまく測れていなくてもう一度10分後に行かなければならなかったり、床に落として割ったり、体温測定だけで朝の忙しい時間に手間取ることがありました。


テルモ体温研究所に「水銀から電子へ」という記事があります。
「1985年、60年以上も続いたテルモの水銀体温計づくりは、突然、終わりを告げました」とあり、水銀体温計から電子体温計へと変化したのは80年代半ばのようです。
1983年には電子体温計が初めて発売されたようですが、まだ高価だったのでしょう、臨床で電子体温計にとって換えられるまでは10年ぐらいはかかったような記憶があります。


水銀を使用しないという環境面での理由だったようですが、看護職にとっても業務の負担軽減になる画期的なものでした。


<体温計による誤差が増えた>


ドラッグストアーに行くと、何種類もの電子体温計が販売されています。
「○○秒で測れる」という計測時間の差や、「耳で測れる」「額で測れる」といった測定部位の違いなどさまざまで、皆さん、どうやって選択していらっしゃるのだろうと興味深いものです。


電子体温計は水銀に比べて本当に早く測定できて助かっています。
ただしメーカーによって、あるいは測定部位によって0.3℃〜0.5℃ぐらいの差があるのではないかという印象がありますが、実際にどうなのでしょうか。


成人ならそのくらいの測定誤差は許容範囲なのですが、出生直後から数日ぐらいの新生児では低体温の判断をするのに悩む数値です。
あるいは成人でも子どもでも、体温と免疫力といった話に巻き込まれる可能性もありますね。


体温計ひとつとっても、体感を数値化するのにより正確で便利な器機が本当に増えました。
その分、数値だけを信じてしまわずに、測定誤差を頭に置いておく状況も増えたのかもしれません。


「測定誤差」とは、コトバンクの「世界大百科辞典第2版」では以下のように説明されていました。

測定の目的は測定値の真の値を求めることであるが、得られる測定値にはいくらかの誤差が含まれることは避けられない。このように測定に際して測定値に入り込む誤差を測定誤差と呼び、測定値から真の値を引いた値と定義する。

測定誤差の原因は次の4通りに大別される。(1)測定の理論、原理の不完全さ 例えば来たいの温度を状態方程式を用いて求めるときの状態方程式自身の不確かさ、(2)測定器の不完全さ 例えばセンサーのヒステリンスや機器の目盛間隔のふぞろいなど、(3)測定条件の変動 例えば周囲温度、湿度、気圧、電源電圧の変化の影響など、(4)測定者の能力の違い 例えば目盛の読み取りや測定器の取り扱い方の個人差など。


測定誤差ということを頭の片隅に置いておくと、数字に一喜一憂しなくてすみそうです。


そして私の歩数計は、測定誤差があったとしてもそのまま数値が改ざんされることなく記録されるので、しばらく使い続ければどんな測定誤差があったのか見えてきそうなので、楽しみにしています。




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