「授乳・離乳の支援ガイド」のあれこれ 2 新生児について知らなさすぎた

ちょうど液状乳児用ミルクが発売されたこともあって、いろいろな意見を目にするこの1週間でした。

 

その中で、液状乳児用ミルクのパッケージに「母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養です」と書かれていることへの意見がありました。

書く必要がないのではないかという意見に対し、「1981年にWHOが採択した国際規約の中で明示するように決められている」といった内容を目にしました。

実際には1981年代から「母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養」という表現を使っていたのは母乳推進団体などで、WHOも最初は母乳のメリット・人工乳のデメリットもわかるようにというニュアンスだったのが、しだいに先鋭化された感じでしょうか。

たとえば2007年、ベネズエラ母乳育児が法律で強制する動きのような。

 

 

*新生児について知らなさすぎた*

 

さて、1981年のWHOの決議の政治的背景はともかくとして、とりわけ1990年代から劇的に新生児についてデーターが揃い出したので、周産期医療関係者にとってはそのスローガンと現実が乖離している葛藤があったのではないかと思います。

 

私自身、80年代終わり頃に学んだ新生児についての内容では全く太刀打ちできないほど、新生児についての知識が劇的に増えたのが1990年代でした。

それは、ベビー用体重計、電子体温計、黄疸計あるいは血糖測定器といった、現在では新生児の客観的なデーターの基本になる医療機器が、ひろくどの施設でも使われるようになったのがこの頃です。

 

まず、ベビースケールが発売されたのが1974年で、当時はまだ10g単位までは測定できないアナログのタイプでした。

それを考えると、生理的体重減少を正確に把握できるようになったのは、1980年代以降です。

「赤ちゃんが欲しがる時に欲しがるだけ」母乳を頑張って吸わせていたら体重減少が10%ぐらいまでになって慌てたり、減少の実態がデーターとしてわかるようになったのは80年代から90年代でした。

 

新生児、特に生まれた直後から生後2〜3日までは、低体温を起こしやすいことがデーターとして出てきたのも簡単に測定できる電子体温計が80年代後半に実用化されたことが大きいものでした。

昔は低体温に気づかずに、後述する低血糖、哺乳力不良など、その後の発達にも影響があった赤ちゃんたちもいたかもしれません。

 

また、日本人は比較的高くなりやすい生理的黄疸の検査も、初めて1980年に経皮黄疸計が開発されてからその機械が使われるまで時間が必要でした。とても高価だったからです。

生理的黄疸が強くなると哺乳力が弱くなりますが、早めに黄疸へ対応することが可能になりました。

そういう赤ちゃんは、母乳に吸い付く力も一時的に弱くなる傾向がありますから、ミルクが必要な場合がほとんどです。

 

そして、活気がないとか哺乳力が弱い場合、低血糖を起こしていないかチェックできるようになったのも、新生児用の血糖測定が可能になったここ20年ほどのことです。

血糖値が低ければためらわずにミルクを補足し、それでも低ければ治療が開始されます。

 

90年代初頭、「母乳育児成功のための10か条 」を先駆的に取り入れていた施設で働きましたが、その頃はまだ私も赤ちゃんは3日分のお弁当と水筒を持っているから母乳だけで大丈夫という聞きかじった言葉を使って、産後すぐからの頻回授乳をお母さんたちに勧めていました。

こうした新生児に関する出生直後の変化やデーターが揃い始めた90年代に、1980年代の「母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養」というのはそういう場合もあるし、そうでない場合もあることが明確になリつつある時代だったのだと思い返しています。

 

 出生直後の新生児は元気そうに見えて、こんなことが起きるのかと。

 

1981年ごろなら「母乳は赤ちゃんにとって最良の栄養です」というおおまかなスローガンでも良かったかもしれませんが、90年代に入り、新生児についてそれまでとは比べものにならないほどさまざまなことがわかってきたのに、なぜか母乳育児推進運動ではそのあたりの知識やヒヤリとした経験が浸透していかなかった印象です。

 

 

WHO/UNICEFもそろそろ「母乳育児成功」という表現を見直して、「授乳の支援」にしたほうが良いのではないかと思いながら、日本の「授乳・離乳の支援ガイド」を読みました。

 

 

 

 

 

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