助産師の世界と妄想  29 <助産師会の「ホメオパシー問題」とは>

ふだんブログの記事を書き溜めているのですが、ホメオパシーのことを下書きに入れた日に、うさぎ林檎さんがほとぼりは冷めたのか?を書かれていてちょっと鳥肌がたちました。


同じ日にホメオパシーについて書いていたことに鳥肌が立ったのですが、まあ、これは単なる偶然も奇跡や神秘に見えるあたりですね。
もうひとつは2000年代初めの頃にとある開業助産師が取り入れ、助産雑誌でも紹介されて広がってしまったホメオパシーがこうして根強く助産師の中に残ってしまっていることに、鳥肌がたったのでした。


数年ぐらいで瞬く間に助産師、特に助産院などで広がったホメオパシーですが、その最盛期だった2000年代後半もそして現在も、周囲の助産師の中で知らない人の方が多いことにいつも驚いています。
助産師界の歴史に残りそうな失敗」とも言える、代替療法に対する脇の甘さだったと私には見えたのですが、何が失敗なのかわかっていなければ本当の対策は取れないのではないかと思います。
あの舌小帯切除が亡霊のように、最近の若い世代の助産師の口から出てくるのを見ると、あと10年20年もすれば、またぞろ「ホメオパシーが効くよ」という助産師が再出現するだろうなと、うさぎ林檎さんの記事を読んで心が冷え込んだのでした。


ホメオパシーの動向についてはうさぎ林檎さんの鋭いアンテナには太刀打ちできないのですが、「なぜ助産師の中に広がったのか」についてうさぎ林檎さんの記事の中にその理由が感じられた部分がありました。



<細かいところが気になってしまう「創立90周年記念誌」>


昨年、日本助産師会が「創立90周年記念誌」を出したことをうさぎ林檎さんの記事で初めて知りましたが、細かいところがいくつか気になりました。
「一貫していない」「言い方を変える」あたりでしょうか。


ホメオパシー問題」(p.47)では、「この事故は、本会のみならず医療界でも大きな問題になり」と書かれていますが、2010年に起きた開業助産師の事件以前からこの問題の経緯を見てきた側からすると、「助産師会が問題にしなかったから医療界を巻き込む大きな問題になった」と思えるものです。


「10年間の沿革」(p.26)をみると、2010年(平成22年)に以下のように書かれています。

8月 ホメオパシー助産師が医療に代わる方法として使用したり、勧めることへの禁止見解発表。


その前に、こちらの記事に書いたように、2009年の時点で日本助産師会ホメオパシーを肯定する「ホメオパシーに関する見解」を出しています。
事件の後、2010年7月9日付で「ビタミンK2投与がなされず、児が死亡した件に関して」では、ホメオパシーという言葉を使わずに「今回の自然療法を含む東洋医学代替療法」に話を置き換えてしまっています。


だからこその「ホメオパシー」についての会長談話が出たのではないでしょうか。
そのあたりは、当時日本助産師会会長だった加藤尚美氏の文章(p.39)には、以下のように書かれています。

平成21年10月、山口県でビタミンK2欠乏性出血による乳児の死亡例があり、22年7月、読売新聞、朝日新聞に大きく報道された。学術会議からは、「ホメオパシー」の治療効果は科学的に明確に否定されており、医療従事者が治療に使用することは厳に慎むべき行為という談話が発表された。この談話を直ちに受け入れ、当時の金澤一郎会長に、本会は会員に対して助産業務としてホメオパシーレメディーの使用をしないよう徹底することを伝え、会員にも通知した。医学界を巻き込んだ事例としていつまでも心に残る問題であった。


これが経緯としての事実に近い内容であると思います。
ところが残念なことに、「ホメオパシーの問題」ではこのあたりが割愛されてしまっていました。


そして「この問題を契機に、助産師の業務に関係深い代替療法との関わりは慎重に対応するようになった」とし、「このことを踏まえ、『助産師業務ガイドライン2014』には、医療安全上重要な12事項の1つとして、ガイドラインの1条項に加えられた」とあります。
どのように「慎重に対応するか」が書かれているかを期待したのですが、ビタミンK2投与の重要性だけが書かれていたのでした。
それは、教科書にも載っている当然の内容でした。



問題は、なぜその当然すぎるビタミンK2投与に「疑いの気持ち」が沸き上がり、決められた医療行為をしなかったのかというあたりに、再発防止策の鍵があると思うのですけれど。



ふと、思ったのですが、1990年代に医療安全対策が浸透してからは、こういう事故事例に対するインシデントレポートを書くときには、時系列に沿って可能な限り事実を残すように訓練されてきました。
あるいは、事例検討や症例検討を書く場合も同じです。


もしかすると、助産師会に限らず、事実を記録する訓練が足りないことも、独特の助産師の世界を生み出している理由の一つかもしれません。
だからお産や母乳に対するファンタジーとか、助産業務についてのプロパガンダが広がりやすいし根強いのだろうと。
もう少し続きます。



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