思い出すと、こちらに書いたように、私が小さい頃から我が家には健康法やら代替療法があふれていました。
青竹踏みとか、ビタミンCの大量内服とか、西田式健康法の本とか・・・。
「ひと口50回は噛むように」言われたのもそのたぐいでしょう。
1960年代から70年代は今から考えると、国民皆保険の時代に入ったばかりでそれまでの医療周辺の職業が整理されたばかりだったので、両親にとっても病院に受診することは今よりも敷居が高く感じた時代だったのかもしれません。
また私の家だけでなく、日本社会がまだ医療とその周辺の代替療法との境界線ができつつあった時代だったのだろうと思います。
<たとえば乾布摩擦とその効果>
今でも時々冬になると「保育園で元気に乾布摩擦」なんてニュースが流れますが、あれも私の小さい頃からあった健康法です。
末梢からの皮膚への刺激が延髄を介し、迷走神経に影響を及ぼし、自律神経の働きを高めるといわれている。
専門用語をちりばめられているだけで圧倒されそうですね、きっと。
乾布摩擦は鍼灸の考え方から来ているようです。
その作用機序には、鍼灸治療の効果の一因とされる、軸策反射や体性ー内臓反射が関わっていると考えられる。
「軸策反射や体性ー内臓反射」という医学用語のようで医学用語ではない言葉にまず私は赤信号が見えるのですが、それに対して先に引用した「延髄」「迷走神経」などは医学用語です。
医学的に明らかな概念とそうでないものを一緒に使えてしまうところが、まずは思い込みと言えそうです。
<新たな疾患や情報をたくみに取り入れる>
ただ、今日は鍼灸のメカニズムについて書くつもりはなくて、こうした健康法や代替療法は新しい疾患や情報をたくみに取り入れて生き残っていくことについてです。
乾布摩擦も私が小さい頃は、「風邪をひかない」ぐらいの効能だったような記憶です。
検索してみると、「気管支喘息」「ダイエット」「美肌」「冷え性」などいろいろとありますね。
これはあくまでも推測ですが、喘息が効能に加わったのは1970年代頃からこちらの記事で書いたように、アレルギー疾患が徐々に解明され始めて喘息について社会が解決方法を求め出したころではないかと思えるのです。
こうした健康法や代替療法は、その時代の人々の関心ごとをうまく利用して生き残る。
そうして効能が肥大していくので、根拠のない万能感が出来上がるのかもしれません。
<思い込みから妄想へ>
乾布摩擦とか青竹踏みをしている親を見ても、うさんくさいなぁぐらいの今思えば実害のないかわいいものでした。
助産師の中にホメオパシーなるものが広がっていることを知ったのが、2008年ごろでした。
成分が一分子も含まれていない砂糖玉を舐めて「気持ちが楽になる」こと自体は否定も批判もするつもりはありません。
驚いたのは、「逆子に効くレメディ」「陣痛がくるレメディ」「前置胎盤に効くレメディ」などのありえない効果とともに、「GBSに効くレメディ」なるものがあって助産師側からも勧めていたことでした。
GBSというのはB群連鎖球菌で、分娩間近の妊婦さんの産道から陽性になった場合には、新生児への感染を予防するために分娩前に抗生物質の点滴を実施することが現在は標準的な医療です。
1990年代に入ってから始った医療ですから、比較的新しいものです。
GBSが陽性になれば点滴という医療行為が必要ですから、自宅分娩や助産院での出産を希望していた方々も病院や診療所での分娩に変更しなければいけなくなります。
最初から医師のいる施設での出産を予定していた方には何の必要性もないレメディですが、助産師だけが介助する自宅分娩・助産院分娩を熱望していた産婦さんと助産師には「なんとかGBSが陽性にならないでほしい」という願いをかなえてくれるものです。
そしてその願いをかなえるが如く、ホメオパシーの会社はちゃんと作ってくれるのですね。
どこにそんな打ち出の小槌のような生産ラインがあるのでしょうか?
通常医療を否定しながら、その通常医療の新しい疾患や情報を取り入れて、ますます万能感を広げていく。
それは思い込みが妄想になった形といえそうです。
「思い込みと妄想」まとめはこちら。