助産師の世界と妄想  31 <「憑物が落ちる」ようなものは教育から除く>

最近、30代前後の助産師から立て続けに「おひなまき」という言葉を聞いて、あの舌小帯切除と同じく、「こうすれば〇〇に効く」といった話は手を変え品を変えて10年おきぐらいに亡霊のように蘇ってくるのだなと、むしろ感慨深いものがあります。


「おひなまき」についてはこちらの記事で書きましたが、泣いて眠ってくれない赤ちゃんに対応するために昔から世界中で赤ちゃんをぐるぐる巻きにしてきました。
その変化形が「おひなまき」のようですが、イメージしにくい方は、CMで白戸家のお父さん(犬)が風呂敷に包まれている姿を思い出して見てください。あんな感じです。


その助産師の勤務帯から交代した時に、ナースステーションに預かった新生児がバスタオルであの状態にされていました。
あ〜あ。お母さんに何て説明して、目の前でこんな風に赤ちゃんを包んだのだろう。
そのお母さんは、どう思ったのだろう。
もしお母さんが「目から鱗」でこの方法にのめり込んで、「おとなまき」まで行き着いたらもう誰の声も耳に入らなくなるのではないか、いま何と声をかけたらよいのかと悩みました。
説明の仕方によっては、前の勤務帯の助産師のことを否定しているかのように受け取られてしまう話ですから、それはむしろ信じた人にとっては火に油を注ぐことにもなります。
翌朝までそのお母さんの様子を見ていましたが、普通にバスタオルでくるみ、泣けば抱っこして落ち着かせていて安心しました。「あの方法を教えてください」と言われなかったので、こちらからも触れないようにしました。


<「憑物がつく」状態>


私がニセ科学という言葉を知ってから、かれこれ10年になるのかと懐かしいような、昨日のことのような不思議な感覚です。
その後、最初は助産師の世界のおかしい部分を考え始めてブログにしていましたが、だんだんと「これがヒトの世の中なのだ」というあたりまで変化してきました。


ちょうど10年前はまだ、助産師の世界だけでなく世界中で代替療法的なものが見直されて「現代医学の足りないところを補完する」というニュアンスで広がっていたので、出版物にも肯定的に取り上げられていました。
さらに自律した助産師といった風潮が強くなった時代で、その頃に助産師教育を受けた世代ですから、80年代に「自然なお産」の熱に煽られた私たち世代と同じく、なかなか強固な信念を持った助産師を排出したのではないかと観察しています。


ただ、そういうことにハマる助産師が全体のどれくらいかといえば、助産師の私から見ても多分数%にも満たないのではないかと思います。
あくまでも印象ですが。
また、病院やクリニックに勤務するか、個人で開業するかによっても割合は変わってくることでしょう。


ちなみに、先日、キャベツ湿布の話題をネット上で見かけました。私にとっては「ああ、10年前にもそんなことがあった」ぐらいの話です。というのも、この10年の間に乳房専用のアイスノンが廉価で購入できるようになったので、たぶんそれを活用している施設が多いのではないかと想像しています。
助産師にキャベツを勧められた」という書き込みがあったとしても、時系列で考えると「今の話」ではないものも多いのではないかと私には思えました。


アイスノンができた現在でも強固にキャベツシップを勧めるのであれば、相当な「キャベツ原理主義者」になりそうですが、今回のネットの話題の発端は、助産師ではなく他の職種の方が書いた記事でした。
おそらくこういう話題の広がりにはタイムラグがあって、助産師の世界では下火になった話が他所で広がったのではないかと。
ところが何だか話は「キャベツ湿布を勧めるバカな助産師」の方向へ向いてしまって、現場としては「本当はどれくらいそんな人がいるのだろう」という印象でした。


まあ、批判にも「憑物がつく」ような状態ってあるのかもしれませんね。


<「憑物が落ちる」状態を繰り返させない教育を>


ただ、10年前の代替療法に好意的な教育を受けた助産師でも、こうした代替療法的なものやさまざまな研修や民間資格制度を「宗教的だよね」「学生時代に教員から勧められて、何だかおかしいと思った」と距離をおいている人たちもいます。


「自然なお産」とか「できるだけ母乳で」という熱に煽られた私からみると、その憑物がつくかつかないかの差はどこからくるのだろうと、その冷静な判断を羨ましく思います。
むしろこういう人たちの方が、「不勉強」と思われないようにしなければいけないと思います。


現場というのは何かに熱狂する人たちの声が大きくなりやすいものです。
それはどんなメリットがあり、デメリットがあるのが。
それはどんな効果があり、どんなリスクがあるのか。
それを事実の中から見極めていき、憑物が落ちてはまた別の憑物に落ちることを繰り返さないようにするのが、看護教育の目的ではないかと思います。



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