助産師の世界と妄想 9 <新生児訪問指導は何をするのか>

新生児訪問はどのようなことをするのでしょうか?


私も、保健センターから借りた吊り式の体重計などが入った訪問バッグを持って出かけました。
「体重を計りますね」とこちらの「訪問用乳児体重計」を取り出すと、皆さん驚かれます。


体重を計り順調に成長しているか、授乳やその他不安はないか、お母さんの産後の回復はどうかなど、お話を伺います。
現在は4ヶ月までの赤ちゃんまでに対象が拡大されましたが、おおむね2ヶ月以内の訪問が多いので、その後の予防接種や健診、あるいは育児相談やヘルパー制度、他のお母さんたちとの出会いの場など社会資源について説明をします。


そのような訪問内容を所定の記録にまとめて、保健センターに提出します。
必要があれば、保健師さんが再度訪問をしたりフォローをして行くシステムです。


<新生児訪問の目的>


東京都の「新生児訪問とこんにちは赤ちゃんの恊働に向けて〜東京都ガイドライン〜」のp.1に昭和40年の母子保健法による新生児訪問の内容、p.10に目的が書かれています。

○新生児訪問
・清潔・保温・感染防止
・母乳栄養・乳房の手当・授乳技術
・疾病の早期発見とフォロー
・療育の指導

新生児訪問の目的
・妊娠・分娩・産褥の状況及び母体の健康状態を観察し、必要なケア・支援を行う
・家族の状況及び健康状態を確認し、必要なケア・支援を行う
・新生児等への栄養状況及び一般状態を確認し、必要なケア・支援を行う
・両親の育児不安への対応
・家庭の育児環境を確認し、必要な支援を行う
・新生児等の異常の早期発見
育児支援情報の提供

授乳に関してどれくらいミルクを足したらよいかとか、どれくらい体重が増えていればよいのかなどは、まだ時代の変化の中にあって周産期・小児関係者の中でも混沌としているので、判断がまちまちになりやすいとは思います。


ただ、それ以外に関しては通常医療の中では代替療法を組み込まなくても対応が可能なことだと私は思うのですが、新生児訪問では少し違う世界が広がっているような印象です。


<指導員の質を保つ研修がない>


助産師なら上記の目的に応じた訪問ができる専門職である、と保健センター側では受け止めているのだと思います。


言い換えれば、まさか新生児訪問で代替療法を勧める機会にしている助産師がいるとは認識されていないのかもしれません。


以前は、東京都のガイドラインのp.2にあるように、訪問指導員の研修制度がありました。

東京都では、平成9年まで妊産婦訪問指導を実施していた際、妊産婦訪問指導員の認定講習会を実施し、講習を終了した保健師又は助産師を訪問指導員として、委託契約するなど訪問指導全般に熱心に取り組んできました。

私もこの東京都の認定講習会に参加しました。
3日ぐらいの日程だった記憶がありますが、産褥期の母親や新生児についての最近の考え方や予防接種などの講習や、訪問にあたっての心構えのような内容でした。


訪問指導員になるのは、臨床経験だけでない広い視野からの勉強が必要だと感じたものでした。


ところが、上記ガイドラインに書かれているように、1997(平成9)年に新生児・妊産婦訪問が都から市町村へ移管されたことにより、訪問指導員になるには保健センターでの簡単なオリエンテーションだけになったようです。


ちょうどその頃から助産師の中でも、積極的に代替療法を取り入れ開業する人たちが出始めました。
自分の思い込みからそれらを信じ込み、さらに訪問指導で勧めている助産師が増えた事は想像に難くないことです。


研修制度がなくなってしまったので、せめて各保健センターでのオリエンテーションで「代替療法を勧めることはしない」あるいは「予防接種を否定的に説明することはしない」といった心構えを持たせる事は必要ではないかと思います。


ただ、新生児訪問では勧めなくても、そのあとにまだ訪問をきっかけとした「抜け道」が助産師には用意されています。
それについては次回書こうと思います。





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