男性は助産師になれないのか?

ネット上で男性助産師の話題がちらほらと出ていました。
以前、「助産院は安全?」の「医師の立ち会うお産がなぜこんなに嫌われてしまったのか」http://d.hatena.ne.jp/jyosanin/20110913/1315870343に、私の考えをコメントしました。
覚書ということで、書き残しておこうと思います。


実際には、現段階では難しいだろうなと思います。
医師と助産師の妊産婦さんへの関わり方の違いは「点と線」と表現されることがありますが、医師が時々診察で関わるのに対して、助産師はずっと側にいて心身の変化を観察していく仕事です。痛みや不安での感情表出、排泄の介助など日頃人には見せることのない部分まで他人に委ねる必要がある分娩の場で、男性助産師が受け入れられるかどうか。
この部分を先に法律で制度化して現場に強制的に男性助産師を入れる体制ができてしまった後では、産婦さんは「女性助産師にみてもらいたい」あるいは「男性はいや」と思っても拒否できなくなる可能性があります。
男性医師と女性医師の診察に関しては、選択の余地があります。
でも交代制で働く助産師の場合、「お産の時は女性助産師で」と選択できる現場の余力はないと思います。
また現在も男性医師の診察時には、必ず女性看護職が介助に入ります。
男性助産師の場合には内診だけでなく、ケアとしての導尿や排泄の介助にまで、別の女性の看護スタッフを立ち会わせることが必要になるわけです。
それではとても現場の仕事は立ち行かなくなるでしょう。
それなら女性助産師を雇用したいということになり、男性助産師の需要はほとんどないのではないかと思います。


海外で男性助産師が実際に働いている国もあるようです。分娩時にどれだけ直接的な身体のケアを実施しているのか、私も詳細は知りません。
ただ、そういう国ではパートナーの男性が分娩時につきっきりで、医療従事者といえども他人が身体へのケア(マッサージなど)をすることがほとんどなかったり、無痛分娩が主体であったりという背景もあるようです。


アクティブバースとか「主体的なお産」をつきつめていくと、助産師はほとんど介助することがないということになるわけです。
この逆説的な状況を、日本の助産師や女性がどこまで受け入れるか、それとも今の日本のような女性助産師・看護職による分娩時の身体のケアを選ぶか、それによっても男性助産師の需要は変ってくることでしょう。


日本の看護士は精神科勤務の方が多かったようですが、最近は男性看護師さんたちが多方面で活躍されています。それでもまだ全体の5%のようですね。
看護師の名称変更になるまでは、保健師助産師看護師法の中でこの男性の看護士が法的な根拠を与えられていたようです。「・・・を業とする女子をいう」という法律の中でです。
法律のことはよくわかりませんし、上記に書いたように現実的には男性の助産師が分娩介助に直接関わることは無理だろうと思いますし、個人的にも働きにくいなと思います。
ただ、憲法ではやはり男女に仕事を選択する自由が保障された社会であったほうがよいのではないかと思います。


男性看護師の中にも、新生児に関心のある方や産婦人科に関心がある方もいると思います。でも希望しても配属されない。
そういう性的差別は、感情の部分だけの問題で不可能のままであってよいのかと思います。 
古くから看護は女性の仕事とされてきて、男性の心身のケアは女性にまかされてきました。
でも男性看護師や介護職が増えてきて、もしかしたら男性の患者さんの中にも「入浴を介助してもらうのは同性のほうがいいけれど」と思っていらっしゃるかたもいるかもしれません。

「選択できる」だけの社会的な人的資源を増やすことで、心身のケアをする看護や介護の分野の職業における性差を解決していけるかもしれません。


以前は、私自身も男性助産師に対しては絶対に反対でした。
でも最近は少し変わりつつあります。
分娩の直接介助など部分的に規制されるかもしれないけれど、資格取得に関しては門戸を広げてもよいのではないかと。
いつまでも女性の視点だけの妊娠・出産・育児のかかわり方では、看護としての理論・技術論は発達しないのではないかと危惧しています。
看護のいろいろな領域の中でも、産婦人科が一番、看護ケアの標準化が遅れているように思います。
社会あるいは医療資源のバランスから考えた「良い出産の体制」とはどうあるべきか、周産期医療の中での安全性、全国どのレベルの産院(周産期センター、総合病院、診療所)でもできるだけ同じレベルのケアが受けられる努力など、男性の視点があったらもっと理論的に解決している部分があるのではないかと、信念先行ともいえる周産期のケアの議論を見ていると思うようになりました。


分娩時や産褥期の身体ケアは、悪露、排尿・排便のトラブル、痔、乳房のトラブルなどなど、女性同士でも羞恥心で言い出せないものが多いです。
退院時のアンケートにもそういう悩みを助産師や看護師が察して声をかけてくれて助かりました、という声が多く聞かれます。
そういう部分に男性が入ることは、やはり産婦さんにとっては緊張することが増えると思います。
ですから羞恥心を強く感じる部分への直接的ケアへの男性助産師の導入は、やはり慎重であってほしいと思います。


また多くの産科施設では、掃除担当も含めて産婦人科病棟への男性の立ち入りは少なくなるように配慮されていると思います。
性的な感情と言うのはとてもデリケートな問題です。
そういう現実的な問題と職業における性差の理想的な議論をどうすり合わせていくか、やはり結論は急がないでほしいと現場で働く一人としては思います。