完全母乳と言う言葉を問い直す 24 <非常時に母乳は必ずでるのか>

昨年の東日本大震災の直後から、ネットやtwitterで「母乳は吸わせれば出るからやめないで」「粉ミルクや哺乳瓶の配布は必要な人だけにして」といったメッセージが広がりました。


きっと多くの人は、粉ミルクを足すことがいけないと考えたのではなく「母乳を続けても大丈夫だから」という励ましの意味をこめて拡散に協力したのではないかと思います。
あるいは自分自身が授乳中で不安だったから、そういいきってもらえるメッセージを求めていらっしゃった方もいるかもしれません。


<日本ラクテーション・コンサルタント協会のメッセージ>


そのような状況の中で、最も多く目にしたのが前回の記事でも触れた日本ラクテーション・コンサルタント協会のメッセージでした。

2012年3月20日には新生児医療連絡会から、上記団体のメッセージを参考にしたの2つのメッセージが出されています。
「災害時の乳児栄養について」
http://www.jnanet.gr.jp/kan/infantnutrition20110320-1.pdf
「災害時の乳児栄養&カップ授乳について」
http://www.jnanet.gr.jp/kan/infantnutrition20110320-2.pdf


そして2011年6月7日付けで、日本ラクテーション・コンサルタント協会学術委員会というところから、以下の提言が出されています。
「緊急用物資としての調乳液状乳と使い捨て哺乳びんの取り扱いについての提言  〜乳幼児の援助にあたる自治体、専門家、NPOなどの援助者の方々へ〜」
http://jalc-net.jp/liquid_milk.html


上記3つのメッセージの主眼は、「非常時に粉ミルクの不適切な調乳や哺乳ビンの不十分な洗浄・消毒による感染リスクの増加への懸念」と「『災害時にはストレスで母乳が出なくなることがあります』という限られた情報とともにミルク缶が配布されることへの憂慮」の2点にあるようです。


感染リスクの増加に関しては個々の母親への情報提供も大事ですが、防災備蓄物品の中で行政側が準備をすることでリスクを下げられる可能性が高い部分ではないかと思います。


<災害時にはストレスで母乳が出なくなるのか、大丈夫なのか>


「災害時の乳児栄養」の中に以下のように書かれています。

緊急時だからこそ、感染症予防のために人工乳で育てられている子どもが衛生的に調乳されたものを与えられるべきであり、緊急時だからこそ、感染症予防のために母乳だけで育てられている子どもが継続して母乳で育てられるべきである。
緊急時に母乳だけで育てられているこどもの割合が多ければ多いほど、そのとき人工乳で育てられている子どもに支援をさしのべることができる。


緊急時に母乳だけで育てられるのか。
緊急時にも母乳だけで育てられる母子というのは、どれくらいの割合なのか。
緊急時にも母乳だけで育てられるようにするためには、具体的にどれだけの食糧・水を授乳中の母親は必要としているのか。
また、どのような状況や条件で、それまで母乳だけで育てていたお母さんの母乳分泌が減少して粉ミルクが必要になるのか。


知りたいのはそういうことでした。


たとえば過去の震災時に、母乳だけで育てられた母子はどれくらいいるのか、反対に分泌が減少したり児の栄養状態が悪くなったケースはどれくらいあるのか、など今までまとまった報告書というものを見たことがありません。


阪神大震災は今回の広範囲の東日本大震災に比較しても局地的と言えると思いますが、それでも震災直後の避難所で配布された食糧は250〜1000Kcal前後が1週間ぐらい続いたと書かれていた文献もあったと記憶しています。(出典が不明ですみません)


食糧や水の確保、そして大人も子どもも生命の危険から身を守るだけで精一杯なのが非常時ということです。
その中で「母乳だけ」で大丈夫なのかということに結論を出すには、全体像の把握も分析もされていない状況だと思います。


ですから今の時点は「災害時にはストレスで母乳が出なくなることがあります」としかいいようがないことでしょう。
母乳育児を支援したいけれども、災害時の母乳栄養に関して根拠が薄い現状では大丈夫ということもできません。


災害時の母乳育児について、もう少し続きます。





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