院内助産とは 23 <助産師と高学歴化>

保健師助産師、看護師を目指す方々であれば、国家試験受験資格を得るまでの課程の複雑さに驚かれたことがあるのではないかと思います。


文部科学省が出している「看護に関する基礎資料」の中の「看護師養成制度」(p.2)を見ると、私が30年前に看護学校に進学した頃に比べてさらに複雑になっているのに驚きます。
(直接リンクできないので、「看護に関する基礎資料」で検索してみてください)


この複雑な制度の背景には、戦後、保健師助産師看護師を即戦力として短期間で養成する必要性、専門学校を含め女性の進学率が低い時代に見合った教育年限、あるいはその時代に求められる医学・看護学の知識量にあわせた教育年限、そして時代の変化で社会全体に進学率が上がり高学歴社会にあわせた制度への変革が求められたことなどがあると考えられます。
また、社会人になってから看護に関心を持った方にも門戸を広げている良い点もあると思います。



私が30年前に看護学校に進学する際には大学の看護学部は2〜3校ありましたが、看護師として臨床で働く希望がある人というよりも研究者や管理者を目指している人たちというイメージがありました。


私が看護師になって数年後に助産師学校に進学する際も、文科省厚労省の1年課程の専修学校以外にはまだ選択もない時代だったと思います。
その後、助産師学校から短大専攻科になり、あるいは大学4年間で保健師助産師看護師の3つの国家試験受験資格を得られる大学化が一気に進みました。


上記の「看護に関する基礎資料」の「平成21年国家試験合格者数」(p.3)を見ると、助産師の合格者数1741名中、大卒合格者は698名で全体の4割を占めています。
わずか20年ほどの間に、助産師もそれまでの「専門学校卒」から「大学卒」への動きが加速しました。


助産師の大学院教育課程>


上記の助産師国家資格合格者数の表に「注 助産師の大卒合格者数には大学院・大学専攻科卒者を含めていない」とあります。
これは何を意味しているのでしょうか?


私自身は、看護や助産の教育についてはほとんど知らないので、誤った解釈もあるかもしれませんが考えてみたいと思います。


「大学専攻科卒者」というのは短大の専攻科の1年の課程と思われます。
専修学校であれ4年制大学であれ看護師の国家資格をとったあと、さらに1年間の短大の助産師コースで国家試験に合格した人は、大卒の合格者数には含めないということでしょう。


あくまでも4年制大学の中で看護師・助産師の課程を修了して国家試験に合格した人を、「大卒」としているということだと思います。


では「大学院卒」は、なぜ「大卒」に含まれていないのでしょうか?


現在、日本には「助産師養成課程がある大学院」が11校あるそうです。



今まで大学院に関心がなかったので今回調べて驚いたのですが、助産の大学院というのは助産に関する研究や教育を極めていく機関だけでなく助産師の資格を習得することを目的にする」コースもあるということです。


看護大学を卒業したが助産課程は取らなかった人、あるいは専修学校卒で看護師として臨床経験がある人の社会人入学枠もあるようです。
そいういう意味で「大学院卒」で助産師国家試験には合格したが、「大卒」には統計上含まれないということでしょうか。




専修学校でも、4年制大学でも、あるいは短大専攻科でも助産師の国家試験の受験はできます。
それをあえて「大学院」で受験資格を得て助産師になるコースを設ける意味というのは何なのでしょうか。


おそらく、「正看護師」に対して上級(advance)看護師というアメリカのシステムに似た、助産師に対して「上級助産師」のような新たな差別化した資格をその先に描いているのではないかと推測しています。


助産医」は現実的に無理だから、「上級助産師」に処方権、会陰縫合術その他の検査オーダーなどの裁量権をもたせて医師から独立した助産を行うための資格というところでしょうか。


助産師の高学歴化に伴う専門教育の時間不足>


戦後、それまで看護婦の資格がなくても助産婦として活躍できていた方々も、現在のように看護師の資格が必要という新資格の移行を受け入れざるをえませんでした。


そして次に、看護課程の大学化の時代になりました。
私自身や私の同期もちょうど看護職の高学歴化の節目に資格を取得したので、「たとえ看護学校3年とハードな1年間の助産婦学校を卒業しても、近い将来は大学卒の同業者が増えて私たちは最終学歴は高卒のままになるだろう」と煮え切らない思いがありました。


中には、助産師として働きながら通信教育で大学卒の資格を頑張って得ている人もいました。
看護管理者を目指すのであれば、それも必要なことです。


私自身は臨床の仕事が好きなので、たとえ年下の大学卒や大学院卒の助産師が管理者として上司になってもそれもかまわないと思っています。
より幅広い視点での看護や助産を学んできたのであれば、管理に活かしてくださればよいと思います。


時代の変化の節目にあたり、その変化が医療全体に改善につながるのであればそれを受け入れるのも使命だと思います。


ただ、現在の助産の大学課程や大学院課程の問題点は、4年制大学で十分な助産の基礎教育の時間が確保できないままで卒業しているということではないかと思います。


看護教育も3年間では学びきれなくなったので4年制にしたわけですから、その4年間でさらにそれまで1年の課程で学んでいた助産保健師のコースまでいれれば、専門教育の時間不足は当然のことだと思います。


ですから「大学院卒」といっても国家試験を受けるための課程であるならば、他の学問領域の大学院とは似ても非なる大学院レベルということになるでしょう。
また同じ国家試験を通って同じスタートラインに立つはずが、「大学院卒」「大卒」「専門学校卒」といういくつもの差をつくることに意味があるのでしょうか?
臨床能力や仕事のセンスというのは、学歴よりも卒後の努力にかかってくるものだと思います。



国家試験をうけるための大学院課程というのは、名ばかりの大学院になってしまう可能性があるのではないでしょうか。
そしてその高学歴に見合った仕事として裁量権のある助産師職を作ろうとするのであれば、何かそれも羊頭狗肉という気がします。


国家試験は受かったとしても、臨床に出てからの長期間にわたる職場でのサポート体制がなければ基本的な実践能力は育ちません。
少なくとも数年ぐらいは地道に基本的な知識と技術を習得することが大事です。
でもあまりに「楽しいお産」「自律した助産師」などのイメージを教育課程で作りすぎると、思い描いていた助産師の仕事とは違うと2〜3年で離職していく要因にもなることでしょう。


だから「助産師としてのやりがい」という言葉で院内助産を持ち上げざるを得なくなってきているのではないでしょうか。


でもどんな仕事もそうだと思いますが、地道に経験を積む以外にないことでしょう。
私たちが卒業した頃は「楽しいお産」とか「自律した助産師」とか漠然とした表現はまだ巷に溢れてはいませんでしたので、確実に知識と技術を高めていくことにやりがいを見出していました。
生命に直結する仕事ですから、その責任の重さも含めたやりがいでした。


専門職の教育課程とは、そうした仕事の厳しさを教えるところではないでしょうか。


助産師の高学歴化、そして「自律した助産師」を目指す動きはどのような将来を目指しているのでしょうか。





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