すこし間があきましたが、また「誕生前後の生活」(全生社、昭和53年初版)に書かれている、妊娠・出産・育児に対する野口晴哉(はるちか)氏の整体の考え方をみていこうと思います。
こちらの記事で書いたように、野口晴哉氏はちょうどトリアゲババ(男性の産婆もふくむ)から有資格者の産婆・助産婦へと出産介助者が取って代わられた過渡期に整体を築きあげ、よろず相談のように妊娠・出産・育児について対応していたことも整体としてまとめたのではないかと推察しています。
ですから中には当時の医学的な知識と思われる内容が含まれていたり、反対に全く想像の産物としか思えないような話が混ざっています。
たとえば、野口晴哉氏が早産の赤ちゃんの出産に対応したような話が書かれています。年代は不明ですが、この本のもとになる講演が昭和48年のようですから、それ以前のことと思われます。
Nさんのお嬢さんが7ヶ月で水戸から東京に出てきて、道場に通うつもりでいたところ早産してしまったことがありました。7ヶ月だから育たないだろうと思って、母体のほうに愉気をしながら、赤ん坊はどこにいるのだろうと思ってみたら、ペシャンコになってお尻の方に、風船が縮んだような状態でいるのです。そこで後頭部に愉気をしてみたらだんだんふくれてきたので、これなら助かると思って後頭部に愉気をし続けたら丈夫になってしまった。今になってみると他の子供より丈夫でたくましくなっておりますが、それは後頭部愉気のためだと思うのです。
愉気(ゆき)とはこちらの記事で紹介したように、手を当てたり軽くトンと叩くことのようです。
この部分を読んでまず思ったのは、分娩予定日が不正確だった時代の話ですからおそらく7ヶ月ということ自体が間違いだったのではないかということです。
生まれてみたらもう少し妊娠週数がいっている赤ちゃんで、たまたま元気になったのではないかという印象です。
「ペシャンコになって」とか「ふくれてきて」という表現が何を意味するのかわからないのですが、このあたりは医学知識よりは想像上の産物ではないかと思います。
これぐらいあきらかに変な内容であればわかりやすいのですが、当時の医学知識を織り交ぜながらの話になると「愉気の効果」を信じた方もいたことでしょう。
<新生児メレナについて>
野口晴哉氏の「メレナ」についての説明です。
子供に細菌がいませんとメレナといって、出血して止まらない病気になります。これになると死にます。どんな細菌でも入れば大丈夫。それこそ結核菌だって大丈夫です。余り無垢にしておくとそうなることが時々あるようですが、その為にレモンの1滴を入れた水をやるなどという方法をとるのです。これでメレナは予防出来ます。メレナになった場合には胸椎七の左に愉気をする。多くの場合はそれでよくなります。
いえ、よくならないし危険なのでこの話は信じないようにしてください。
新生児は胎内で母親からビタミンKを臍帯血で供給されていますが、生まれるとそれがなくなりビタミンKが不足することで胃や腸から出血する新生児メレナという病気があります。
1980年代終わり頃から、出生後から3回、ビタミンK2シロップを投与する方法が日本でも行われるようになってメレナは劇的に少なくなりました。そして2010年には「新生児・乳児VK欠乏性出血症に対するVK製剤投与のガイドライン」が改訂されたことはこちらの記事で書きました。
野口晴哉氏が「子供に細菌がいませんと」と書いている部分は、おそらくビタミンKが腸内細菌叢で作られることをどこかで聞いたのだろうと思います。
でもあくまでも、腸内細菌叢の話で、「どんな細菌」ましてや結核菌でよいはずがありません。
そして治療は、ビタミンKが欠乏している原因に対して、ビタミンKを補充すること以外にないものです。
どこかで聞きかじった医学的な話題を整体に結びつけたという印象です。
これ以外にも、新生児から乳児期にかけてのよろず相談的な内容が書かれています。
次回は新生児・乳児期の整体についてみていこうと思います。