助産とは 2 <助産診断と助産師の「診察」>

看護診断ということばが広がるにつれて、助産師の中でも「助産診断」が使われるようになってきたと記憶しています。


私が助産婦学生だった1980年代後半ではまだ助産診断という言葉はなくて、助産計画という言葉で表現されていた内容のことではないかと思います。


当時教科書として使用していた「母子保健ノート2 助産学」(青木康子・内山芳子・加藤尚美・平澤美恵子氏編集、日本看護協会出版会、1987年)には、助産計画は以下のように書かれています。

助産計画とは、母児共に安全に分娩を終わらせるのに必要な、具体的助産活動のための計画の立案、実施、評価であり、これは分娩経過中の継続的な診察、診断に基づいて展開される。

そして「助産計画の展開」の中では、「入院時の診察と診断(情報の収集と整理)」とあり、「診断」という言葉が使われています。


助産師の場合は「診察」という言葉が使われている点が、看護診断とは異なっています。


Wikipedeiaでは「診察」について、以下のように説明されています。

診察とは、医師・歯科医師が患者の病状を判断するために、質問をしたり、体を調べたりすること。
医療行為の一つであり、医師と歯科医師以外の医療従事者は行うことができない
診察や検査の結果をもとに、医師・歯科医師は診断を行い、治療方針を決定する。

Wikipediaでは東洋医学の診察についても書かれていて、医療類似行為である鍼灸鍼灸師が使う「診察法」についても書かれています。


では、助産師の「診察」とは何か、その法的根拠は何かについてまず考えてみたいと思います。


助産師の「診察」>


助産婦学生の時に、冒頭の教科書の「助産の技術とケアの実際」という箇所でたしかに「診察」を学びました。

妊婦に行う診察には、問診、外診、内診がある。

問診の項目は、氏名・住所、年齢、主訴、既往歴・現病歴、最終月経、既往妊娠・分娩・産褥経過と児の状態、家族の構成などがあげられています。


また外診として、全身の状態(浮腫の有無、顔色、体格など)の視診、胎位や子宮の大きさ・おなかの張りの有無などの触診、胎児心音の聴診、そして子宮低・腹囲あるいは体重の測診が書かれています。


当時は疑問に感じなかったのですが、上記の問診は看護師であれば「患者の情報収集」であって診察ではないですし、外診の内容も身体計測や観察という内容であって、看護師も実施しているものです。
あえて医師・歯科医師にのみ許された「診察」という言葉を使う必要はないものです。


なぜ看護師でも同様のことが認められているのに、助産師の場合は診察という表現に置き換えているのか。
教科書では「外診によってわかること」として、以下のように書かれています。

外診結果を総合的に判断し、現時点における異常の有無を知る。そして今後の妊娠経過を予測することができる。

この場合の「診察」は助産経過の予測(助産診断)のためであるということになるのでしょう。


ですから、医師・歯科医師の治療方針を決定するための診察とは全く別で、助産経過を予測するための観察であると言い換えられるのではないかと思います。


では、内診は「診察」なのか。


2012年に出された「新版 助産師業務要覧 第2版」(日本看護協会)では、「助産師独自の判断で実施できる業務」の中では内診は助産の具体的な処置として不可欠であるとして、以下のような見解を示しています。

内診が、第5条(看護師の業務)に規定する診療の補助業務に該当するものであるか否かについて議論された経緯もあった。しかし、産婦に対する内診は、子宮口の開大、児頭の回旋などを確認すること、ならびに分娩進行の状況把握および正常範囲からの逸脱の有無を判断することなど、高度な判断・技術を要するものとして、医師または助産師以外の者が行ってはならないものであり、第3条(助産師の業務)に該当されるものであるという見解がだされた。(*)


(*)平成14年11月14日医政看発第1114001号、平成16年9月13日医政看発第0913002号

「医師または助産師以外の者が行ってはならない」と強調したいために、2008年版の助産師業務要覧にはなかったこの内診の項目が追加されたのだと思います。


その高度な判断・技術を要する内診が、「診察」として助産師に許されているという法的根拠はどこにあるのでしょうか?


またその内診は医師・歯科医師にしか許されていない「診察」と同じものを指しているのでしょうか?
それとも助産計画(助産診断)のための「診察」(観察のための測定)という意味なのでしょうか?


看護師が医師の指示のもとに分娩経過を観察する場合に行う内診は法的に認められず、助産師が助産診断のために「診察」という言葉を使うことが許されたり、さらには超音波画像診断機器を使用することが認められるとしたら、それはどのように法を解釈したものなのでしょうか?


まずは自ら言葉の定義を明確にする必要があるのではないかと思います。


助産」の定義がないままに医師の業務との境界線を越えようとする助産師側の動きについて、次回も考えてみようと思います。




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