医療介入とは 77  <実際に助産師はどのように超音波画像診断機器を使用しているのか>

実際に助産師が超音波画像診断機器を操作している施設がどれくらいあるのかはよくわかりません。


そのような施設では、助産師は具体的に超音波画像診断機器で何をしているのでしょうか?


「写真でわかる助産技術」(平澤美恵子・村上睦子氏監修、インターメディカ、2012年)に「助産師が行う超音波検査」という章がありましたので、それを参考に考えてみようと思います。


超音波検査が「妊産婦に対する基本的な助産技術」という中に含まれています。


助産師が超音波画像診断機器を使うことが許されているという前提で本が書かれる時代になったのかという驚きと、本当に必要なのだろうかという驚きです。


そしてやはり読んでも、助産師と超音波画像検査の法的根拠はよくわかりませんでした。


<妊婦健診での助産師による超音波画像検査>


上記の本では、深谷赤十字病院助産師が実際に超音波検査を実施している様子が紹介されています。


実際にどのような対象に、どのような検査を実施しているか以下のようにまとめられています。

<外来での活用>


●妊婦健診時に、ローリスク妊婦を対象に行う
助産師が行う超音波検査は、実施の基準や報告のルールを決めて行う
●医師がスクリーニング(初期・28週)を実施し、双方で情報を共有する

具体的に、どの週数で何をみているか書かれています。

助産師による定期検査>


20週⇒BPD(児頭大横径)、FL(大腿骨長)、羊水量
32週、36週
   ⇒胎位、胎向、BPD, APTD×TTD(腹部前後径×腹部横径)またはAC(腹部周囲長)、FL、EFW(胎児推定体重)、胎盤の位置、羊水量

<定期検査以外に、超音波検査を活用する場合>


●外計測値が正常範囲から逸脱している
●レオポルド触診法を行い、「羊水量が少ない」「胎位・胎向がわかりにくい」など気になる所見がある


「医師がスクリーニング(初期・28週)を実施し」とありますから、この深谷赤十字日赤病院では、ローリスクの妊婦の場合には、計5回の超音波検査が行われているようです。


助産師のよる定期検査」では、胎児推定体重と羊水量、そして妊娠後期には胎位(頭位か骨盤位か)と胎向(児背が左か右か)、そして胎盤付着部位をみているようです。


医師や臨床検査技師が超音波画像診断機器を使って妊婦さんと胎児を診る場合、上記のポイント以外にもっと細かい異常の有無を確認しています。


「ローリスク妊婦であれば、(異常の発見は)初期と28週のスクリーニング検査の2回でよい」ということなのでしょうか。


であるとすれば、この助産師による超音波画像検査は本当に必要なのでしょうか?


「胎児の体重が小さいのでは?」あるいは「羊水量が少ない(あるいは多い)のではないか?」というのは、腹囲・子宮底の外側値の正常範囲からの逸脱で推測できます。


32週、36週であれば、レオポルド法で腹部を触ることで頭位か骨盤位かわかります。


「正常範囲を逸脱」しているあるいは「何か気になる」時点で、すでに異常の可能性を考えて医師に報告すればよいのではないかと思います。
超音波検査をするかしないかは医師の判断ではないでしょうか?


胎盤の付着部位に関しては、28週の時点で辺縁付着や前置胎盤、あるいはその他の胎盤の異常が否定されていれば、とくにエコー所見がなくても分娩介助には大きな影響を与える情報でもないと思います。


正常な経過で医師が超音波画像検査をする必要がないのであれば、助産師もまた内診や外診で十分に対応できるわけで、つまりは助産師が超音波画像検査機器を自ら操作する必要性はないということになります。


さらに、妊婦健診だけでなく分娩中や産褥期にも助産師の判断で使っていることが書かれています。

<病棟での活用>


●羊水過少や回旋異常が疑われる場合
●産褥期の子宮復古が順調ではないと思われる場合、確認するために実施する

これはすでに「異常」の範囲であって、助産師の判断で異常を確認するために検査をするのは、法律違反ではないかと思います。


分娩進行中の「羊水過少」は、羊水の流出量の観察や分娩監視装置のデーターを観察すること、そして分娩遷延や内診所見あるいは外診所見から回旋異常を予測するのが助産師の業務だと認識していました。


そして異常の可能性があればまず医師に報告する。
勝手に自分の判断で検査をしたり、処置をすれば処罰の対象になることを学生時代にも基本的なこととして学びました。


保健師助産師看護師法には以下のことが定められています。

第38条 <異常妊産婦等の処置禁止>


助産師は、妊婦、産婦、じょく婦、胎児又は新生児に異常があると認めたときは、医師の診察を求めさせることを要し、自らこれらの者に対して処置をしてはならない。ただし、臨時応急の手当についてはこの限りではない。

「医師の診察を求めさせることを要し」という部分は、病院・診療所での分娩になる前の家庭分娩の時代にこの法律ができた背景があります。


医師の診察が必要な状態になっても、「お金がない」と診察を拒むことが当たり前のようにあった時代のことです。


現在は、医療機関であればすぐに医師に報告することが助産師の義務です。


なぜこの法の理解を超えた、超音波画像診断機器の使用が行われるようになったのでしょうか?
そして法律違反の可能性があることが、なぜ助産師向けのテキストで勧められるようになったのでしょうか?