新生児のあれこれ 22  <新生児の感染症>

未だに世間に根強い認識のなかに、「新生児はお母さんから免疫をもらってきたから病気にはならない」というものがあります。


この場合は主に、ばい菌による病気、つまり感染症のことを指しているようです。


麻疹・水痘など母体から特定の免疫をもらっている感染症はたしかにあるのですが、それは生後半年ぐらいはその感染症にはかかりにくいという程度のものであって、感染症には本当に無防備です。


少し古い文献ですが、「産科と婦人科  特大号/産婦人科感染症のすべて」(診断と治療社、2000年)の総論「胎児・新生児の感染防御機構」の「はじめに」の部分を紹介します。

 胎児は母体内にいる限り原則的には無菌状態にあるが出生直後から、あるいは子宮内感染を起こせば出生前にも自ら外界の微生物と対峙しなければならない。ヒトの場合、成熟児は出生時にかなりの程度まで免疫能が発達しており、また、経胎盤的に母体より受け入れられたIgGや母乳によって経口的に与えられたIgAによる受動的な免疫機構が存在するが、成人に比較して必ずしも十分なレベルには達しておらず、また、免疫応答自体が成人とは異なった反応を示すことがある。


<胎児・新生児の感染症が次々に明らかになった時代>


なぜ私が医師向けの医学誌を購入しているのかというと、助産師学校時代に学んだ知識ではとうてい太刀打ちできないほどこの二十数年で胎児・新生児の感染症が次々に明らかになっていることと、まだまだわからない感染症や感染の機会がありうるので、常に学び続けなければいけないと思っているからです。


たとえば、学生時代に補助教材として使用した「最新産科学 −異常編ー」(真柄正直著・室岡一改訂、文光堂、昭和62年)の中には感染症として、梅毒、トキソプラズマ、風疹、ヘルペスB型肝炎、かぜ・インフルエンザしか記述がありません。


もちろん、授業では当時ようやく解明されたHIVウイルス感染(エイズ)やHTLV-1ウイルス(成人T細胞白血病)、パピローマウィルスなど新しい感染症についても学んだ記憶があります。


またTORCH(トーチ)という表現が作られたばかりで、授業で教わりました。
Toxoplasmosis(トキソプラズマ)、Others(B型肝炎、EBウィルス、水痘・帯状疱疹など)、Rubella(風疹)、Cytomegalovirus(サイトメガロウィルス)、Herpes simplex virus(単純ヘルペスウィルス)の頭文字をとったものです。


授業では、当時の最新の母子感染症に関する知識を学びました。


ところが、1980年代終りの頃から助産師として働き始めてから現在に至るまで、つぎつぎと新たな感染症を見聞きしたり、「こんなことで新生児は感染症になるのか」という怖さを体験しました。


あるいは反対に、どうして新生児は「この感染症」にかかりにくいのかという驚きもあります。


そういうわけで、しばらく胎児・新生児と感染症について私自身の頭の整理をかねて書いてみようと思います。




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