産後ケアとは何か  19 <宿泊型ケア施設の需要と現状>

いわゆる産褥(さんじょく)入院のような、出産後1〜2ヶ月以内に母子共に入所できる施設の需要はどうなのだろうと気になって調べているのですが、そうした調査や研究はあるのでしょうか。


あるいは、実際に産褥入院や産後ケアシステムを始めた施設の利用状況や問題点はどうなのかという全国調査があるかどうかも調べてみましたが見つかりません。


産後ケア施設で検索すると、「良かった」という利用者の経験が書かれたブログが多くみつかります。
その中で、もう少し踏み込んで問題点までまとめているブログがあり、とても参考になりました。


「あかちゃんをたくさんのぬくもりの中で育てる 抱っこ&おんぶ紐のお店 あかちゃんといっしょ」というブログの2009年1月20日の記事に、「産後ケアセンター」として実際に世田谷区の武蔵野大学付属産後ケアセンター桜新町を利用しての感想が書かれています。


産後ケアセンター桜新町では宿泊型のショートステイデイケアを行っていて、この方は3人目のご出産後、4ヶ月になる前にデイケアーを使われたようです。


さすがに経産婦さんと思うほど、ご自身の休養に利用しながらも周囲のお母さん達の様子をたくさん観察されたうえで書かれているので参考になりました。


今回はこのブログの内容と、私が見聞きしたことを合わせながら、その需要と問題点について書いてみようと思います。



<産後ケアセンターの利用までの問題点>


2009年の記事ですので現在は改善されているかもしれませんが、手続きの煩雑さをあげていらっしゃいます。

やっぱり区が中に入っているからなのか、手続きが煩雑なのです。
産後利用したい場合は本人が直接区役所や保健センターへ行き、申請書を書かなければなりません。その上で予約の電話を入れてもらうのですが、8室しかないため空いていることがほとんどなく、常にキャンセル待ちの状態。
なので、朝9時前に毎日区の専用電話に確認の電話を入れて空いてたら予約をとります。

産後すぐ、つらくて誰かの手を借りたい!という時にこれだけの手続きを赤ちゃんを連れてできる人がどれだけいるんだろう・・・と思ってしまいました。


私の勤務先のクリニックを退院後、産褥入院の施設を利用したお母さん方はまた別の「手続きの煩雑さ」を感じられたようです。


ご自分で2〜3ヵ所の民間の産後ケアセンターに問い合わせをされたようですが、施設間の対応内容に差があり、選択に悩まれたようです。


夫の転勤・引越しが重なって一時的に避難先として産後ケアセンターを探していらっしゃった方は、体調もそれほどは悪くなく、赤ちゃんの世話もミルクを足しながらだいたいペースができていました。


転居先に近い地域での産後ケア施設を探したのですが、「母乳育児を積極的に勧める」ということで入所中も完全母子同室が原則でした。
転居に伴う諸手続きや準備をしたくても、赤ちゃんを預けて外出することもできないことに困ったとおっしゃっていました。



宿泊型の産後ケアシステムだけでなく産褥支援ヘルパー制度も、その申し込みの煩雑さとすぐに対応できないことに二の足を踏む方が多い印象がありました。


少なくとも利用したい日の数日前に申し込まなければいけないので、出産後の体調や状況が刻々と変化する中で退院後にすぐに利用したいと思っても使えないのです。


また、産褥支援ヘルパーを利用する際に、「母体の体調不良」であることの医師の診断書を求める自治体もありました。
これでは申し込みのハードルは高く感じられることでしょう。


このブログ主さんが利用を決心したのは、ご自身の体調不良がきっかけでした。

そして3ヶ月近くが過ぎ、ケアセンターの利用を思い立ったのは、年末尿路結石になった時。
ものすごい痛みで寝られない夜が2晩ほど続き、それでもなんとか家事をまわしていたら本当に体がつらくなってきたので、ダンナに車を出してもらって申請書を出しに行ったのでした。
それでもすぐに予約が取れるわけでもなく、取れたのは一週間ほどたってから。

高齢者介護でも同じだと思いますが、ショートステイデイケアをすぐに申し込みたいときというのは、のっぴきならない状況があるわけです。


高齢者介護ではケアマネージャーさんという相談役がいて、その状況に応じたサービスの利用方法を教えてくださり、申し込みなどの手続きもお手伝いしてくださいます。


ところが、産後のお母さん達にはこうしたケアマネージャー的な存在がないので大変だと思います。


手続きを簡略化する、緊急利用に対応できるような相談役をつくる。
これが課題ではないかと思っています。


<本当に必要な方が使っているか>


ブログ主さんは、産後ケアセンターの問題点の核心の部分ともいえることを書かれています。

とてもいいサービスだけれど、このサービスを本当に受け取ったほうがいい人に本当にとどいているだろうか・・・ということ。

この施設の正規料金は1泊2日で6万4,000円ですが、区民だと1泊2日で6,400円、デイケアは一日2,060円で利用できるようです。


区の補助があるので、予約をとれないほどの利用状況があるのだと思います。
また他のブログで、産後ケア施設がない地域から正規額でもいいからと申し込まれている人も多いとも書かれていたものもありました。

予約が一杯でなかなか取れないというわりにはけっこう頻繁にリピートしている人がいたり、(中略)1度行った人は何度もリピートするけれど、1度も利用しないで終わる人のほうがずっと多いようなきもして、そこらへんも課題かと思いました。


まずは、本当に宿泊型・デイケア型の産後ケア施設を必要とする状況はどうなのか、その実際の多様な声を知ることが大事ではないかと思います。


そして「宿泊型産後ケアセンターありき」ではなく、その需要に細やかな対応をしていけるような柔軟な考え方が大事ではないでしょうか。





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