産後ケアとは何か  16 <産後ケアとレスパイト事業の経緯>

産後ケアについて調べていくと。「レスパイト」という言葉や考え方を見受けます。


たとえば今年3月から開催されていた少子化危機突破タスクフォースが出した「妊娠・出産検討サブチーム報告」に「『産後ケア』の強化」(p.3およびp.9)として「産後レスパイト事業」とあります。



レスパイトケアとは何か、わかりやすい説明があったのでリンクします。
「気になるカタカナ  レスパイトサービス」

レスパイトサービスとは、障害児者をもつ親・家族を一時的に、一定の期間、その障害児者の介護から解放することによって、日頃の心身の疲れを回復し、ほっと一息つけるようにする援助である。


これは高齢者介護にも言えることだと思います。
2000年前後から、高齢者を介護する人が「介護から解放される時間」が必要であることが社会的にようやく認知されてきました。


介護することの身体的疲労はもちろんですが、誰かをずっと見守ることは精神的緊張が強いものです。
自分に代わってくれる人がいない状況というのは、人を追い詰めます。
それが介護のつらさの根底にあるといえるのではないでしょうか。


それは、赤ちゃんを育てる時も同じだと思います。


そしてケアする側のつらさは、ケアされる側にさまざまな影響を与えることになります。


<現在の産後ケアとレスパイト事業>



少子化危機タスクフォースの「産後ケアの強化」では、「産後早期ケア(産後3,4ヶ月までのケア)の強化」と「『産後レスパイト事業』と『産後パートナー事業』の導入」があげられています。


このうち保健師助産師による新生児訪問が、それまでの希望者対象であったものが「こんにちは赤ちゃん事業」として全戸訪問、すべての赤ちゃんを訪問するようになったのは2007年でした。


訪問の期間も産後2ヶ月以内だったものが、退院後できるだけ早期に電話訪問し4ヶ月以内に訪問をする方法になりました。


産院側でも黄疸や体重増加のチェックが必要な一部の母子をフォローはしても、一見「問題なく」退院された方全員にまでは電話をするだけの余裕がない施設が多いと思います。


こんにちは赤ちゃん事業によって、退院後から1ヶ月までの、特に初産のお母さんの不安や孤独感に早めに介入できるようになりました。
私も以前新生児訪問をしていましたが、よく言われたのが「退院後ずっと赤ちゃんと二人きりだったので、誰かと話をできてうれしい」ということでした。


あるいは退院までに、産褥支援ヘルパー制度や予防接種その他の説明をしても、産後のお母さん達にはいっぱいいっぱいでなかなか記憶に残らないものです。
ですから早期に電話訪問や直接訪問することで、こうした社会資源についてあらためて説明できる機会にもなります。


「産後パートナー型事業」としては、ファミリーサポートセンター事業が2005(平成17)年に始まっています。
「ファミリー・サポート・センター事業について」厚生労働省



もうひとつレスパイト事業に分類されるのではないかと思いますが、産褥支援ヘルパー制度があります。
産後2ヶ月以内の家庭に、家事・育児援助を行う事業です。
経緯をみると、1994(平成6)年6月23日付けで厚生省児童家庭局長から出された「乳幼児健康支援一時預かり事業の実施について」(児発第605号)から始まっているようです。


上記の文書には直接リンクできないのですが、平成12年に改正された内容が「一般社団法人全国病児保育協議会」のこちらに掲載されています。


この産褥支援ヘルパー制度を退院前のお母さんに勧めてみるのですが、まだ退院後の生活がどうなるか想像もつかない時期ですし、他人を家に迎えることの精神的負担のほうが大きいのか決心がつかない産婦さんのほうが多い印象です。


ところが新生児訪問をして実際にヘルパー制度を活用した方々にお会いすると、頼んで良かったという感想がほとんどでした。
「人が来てくれることで、こんなに気持ちが楽になるなんて」と。


もちろん受け手には満足のいかない点、改善して欲しい点は多々あると思います。
より良い制度にしていく努力は大事だと思います。


それでもこうして、1970年代から80年代にかけて「全ての女性が、産後数日から1週間は病院で休養がとれるようになる」時代になったあと、今度は「産院退院後から1ヶ月前後を具体的に支援する体制」が徐々に作られてきたといえるのではないかと思います。


それなのに「産後3日で退院」という早期退院を促進した時に、たとえ宿泊型の産後ケアセンターを作っても、それはあらたに「産後ケア格差」を生み出してしまうのではないでしょうか。


産後ケアとは何か、産後ケアに格差を広げないためにどうしたらよいのか。
そんな視点でもう少し続けてみたいと思います。




「産後ケアとは何か」まとめはこちら
助産師の歴史」まとめはこちら