産後のトラブルを考える 2 <産褥期の排尿トラブルはなぜ起こるのか>

私が助産師になって二十数年間の手元にある資料をざっと読み返しても、産後の排尿トラブルに関する記述はわずかなものです。
もちろんすでに産後の骨盤底筋群のトレーニングなども取り入れられていましたが、おそらく、退院後にまで長引く排尿トラブルはあまり問題視されていなかった時代だったのではないかと思います。


東京医学社から出版されている「周産期医学必修知識」ですが、2011年に出された第7版で初めて「産褥期の排尿不能、尿失禁、尿路感染症」(中田真木氏、三井記念病院産婦人科)という独立した章が設けられ、2ページの解説が書かれています。


今回はそれを参考にしてまずは最近の考え方を紹介し、その後徐々に産後の排泄トラブルへの考え方や対応の変遷を考えてみたいと思います。


ただし、私は研究者ではないので、あくまでも手元にある資料と自分の臨床経験から考えたことです。


<妊娠、出産がどのように排尿に影響するのか>


特に分娩進行中に、トイレにいっても自力で排尿できなくなったことを体験された方は多いのではないかと思います。
中には妊娠中にも、尿閉(にょうへい)といって膀胱は尿でいっぱいになっているのに自力で排尿できずに、救急外来で処置する必要がある方もいます。


また分娩直後にも、膀胱に大量の尿が溜まっても尿意もなく、自力で出せなくなったことを体験された方もいると思います。


上記の章では「産褥早期の下部尿路機能」として以下のような説明があります。

 妊娠末期に、膀胱は増大した子宮や内分泌面の変化によって各種の影響を受けている。膀胱の収縮能力は妊娠経過を通じて弱まり、尿の排出は膀胱の外側から押す力で補われている。

 分娩が終結すると、膀胱を圧迫していた子宮は速やかに退縮し、引き伸ばされた膀胱壁は分娩後しばらく収縮力が弱く、尿意も鈍っていてスムーズに排尿開始できないことがある。尿流の維持には、近位尿道に尿が流れ込むと膀胱が収縮する反射が必要だが、分娩直後に神経機能は低下し、この反射は弱まる。

分娩進行中は、さらに児頭や児の体幹部が膀胱や産道周辺を圧迫しますから、尿閉を起こしやすくなるわけです。


こうした理由で、妊娠・分娩中の排尿トラブルが起こりやすくなります。


そして分娩直後の状況は以下のように説明されています。

 分娩直後には生理的に骨盤底は弛緩しており、腹圧をかければ尿道や膀胱頚部は下がりやすく、褥婦はしばしばこの機転を利用して尿を排出する習慣を獲得する

産後、尿意や排尿感覚が戻っていない方が「力を入れてなんとか出しています」とおっしゃるのは、このような状況だといえるでしょう。


分娩直後から産褥早期の下部尿路機能について、以下のようにまとめています。

全体として、分娩のすぐ後には尿意は弱まっており、膀胱・尿道と支配神経の連携により尿を排出する機能にも明らかな低下が認められる。下部尿路の全般的な活動低下に生理的な骨盤底の弛緩や支持不全状態が加わった状態が産褥早期の骨盤底の機能を特徴づける。

日本産婦人科学会の「骨盤底臓器脱の発症メカニズム」3ページ目の図をみると、子宮や膀胱などを支えている骨盤底筋群がわかると思いますが、赤ちゃんを通過させるためにはこれらの筋群が柔らかくなって産道として開いていく必要があります。


赤ちゃんを通過させるための変化と内臓の重みを支えるという相反する仕事をしなければならないわけなので、そのバランスがくずれることによるトラブルともいえるのかもしれません。





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