出産・育児とリアリティショック 10 <自立した排泄から要介助へ>

以前こんなことを書きました。

無事にお産が終わって安堵し、喜びに満たされている時間というのは案外短くて、お母さん達はあらたな産後の体の変化や苦痛に悩まされ始めます。
まさに、人知れず悩む・・・という感じです。

体が思うように動かせないことや傷の痛み起き上がると気分が悪くなるなどもそうですし、排泄のトラブルにも悩まされます。

それまで自立した排泄をしていた成人女性にとって、地獄にでも落とされるような思いではないかと思います。

その点について書いたのが「産後のトラブルを考える」のシリーズですが、12回分の記事があります。


赤ちゃんが生まれたら世話をしている私・・・というイメージを打ち砕くのが、こうした思うように自分の体のことをコントロールできない現実ではないかと思います。


程度の差はあっても、産後のお母さんたちが感じるリアリティショックではないでしょうか?


<産後の出血は何か>


「産後のトラブルを考える」では排尿・排便について書きました。


もうひとつの排泄として、産後の出血(悪露、おろ)があります。
出産についてあまり考える機会の無い方や男性には、少々、生々しい話かもしれません。


成人女性で無月経生殖器の疾患を持つ方以外は、月経による出血も排泄のひとつであり、自分で必要な物品を準備し自分で対処をしています。
ちなみに、一回の月経の総出血量は20〜140gが正常範囲とされています。
「基礎体温をはかろう!」より)


それに対して、分娩直後ではわずか1時間ぐらいで50g、多いと100g以上の出血、すなわち月経一回の総量以上の出血があります。


この出血、悪露は何か。
「周産期診療指針2010」(『周産期医学』編集委員会、東京医学社)の「産後の一般管理」では以下のように説明されています。

子宮の収縮により排出される子宮内分泌物を悪露とよび、産褥3日ぐらいまでは血液成分主体の赤色であるが、徐々に褐色となり、10日以降では黄色、その後白色となる。(p.456)

もう少し詳しい説明が、上記文献の「子宮復古不全」の中に書かれています。

産褥子宮では収縮した筋層により血管が圧迫されるため虚血した状態に見える。子宮の超音波検査では、産褥14日目では78%で子宮腔内に悪露の停滞がみられる。21日目では52%、28日目では30%、35日目では10%に停滞がみられると報告されている。
 分娩後に脱落膜は2層に分かれ、表層は悪露として排出されるが、基底膜は子宮内にとどまり新しい子宮内膜の源となる。子宮内膜の修復は胎盤付着部以外では急速に起こる。一週間以内に胎盤付着部位以外の子宮内腔表面は上皮で覆われるようになり、分娩後16日目にはいずれの部位でも上皮化が認められる。(p.464)

胎児を娩出し終わった後の子宮内は、血管壁が露出した大きな傷のようなものですから、ギューッと収縮して無駄な出血を出さないようにして、時間をかけて内膜を再生させていきます。


この過程で出る出血が悪露です。


<産後の出血とリアリティショック>


さて、産後初めてトイレに行くために立ち上がったとたん、どっと床に出血が流れるほど悪露が出ることがあります。


下着やスリッパどころか床を汚してしまう出血に、何が起きたのかと一瞬頭の中が真っ白になるのではないかと思います。


産後の産道は分娩で赤ちゃんの頭を通過させるほど柔らかく伸展していますから、寝た姿勢のままだと数百gぐらいの出血を留めるほどです。
ナプキンにはそれほど出血していないのですが、立ち上がった途端に溜まった出血が押し出されてきます。


通常の月経では、人の手を借りなければの出血の対応をできないことはないので、産後、まさか着替えや床の掃除までしてもらうことになるのは、成人女性にとっては屈辱的なことではないかと想像しています。


そして、この産後の大量の出血に備えて、人生でこんなに大きなナプキンをみたことがないと思うほどの大きさの製品を使用します。
初産のお母さん達の多くの方からトイレからのナースコールがあって、「使い方がわからない」と戸惑われます。
あらかじめ説明をしていても、わかりにくいようです。


きっとこのナースコールを押して産後ナプキンの使い方を質問するのも、ちょっと屈辱的な気持ちではないかと思います。


イメージしていた産後とは大いに違って、排泄にまで人の手を借りなければいけないのですから。


このあたりの成人女性が排泄の自立を妨げられるリアリティショックが、案外、生理用品を使わないことに意義を見出す方向などへ飛んでしまうのではないかとちょっと思っています。個人的な感想ですが。


こうしたの女性の気持ちをきちんと観察し、その中の法則性を見極めて、屈辱感を受け止めるケアが必要ではないかと思います。





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