母乳のあれこれ 9 <母乳のためにどれくらい水分が必要か>

ぽむぽむさんの「母乳育児に成功した理由」の中に、「事前に勉強していた」として次のことが書かれています。

・よい母乳にするための食事のこと
・水を2リットル以上飲むことなど

「よい母乳」やそのための食事についてはまた改めて書いてみようと思いますので、今日は「どれだけ水分を摂ったらよいか」について考えてみようと思います。


<さまざまな回答のご照会>


手元にある資料ではどのような説明があるか、紹介してみます。


「Q&Aで学ぶ お母さんと赤ちゃんの栄養」(「周産期医学」2012年増刊号、東京医学社)の中の「授乳期の食生活の具体的なポイント」(p.395)の中に以下のように書かれていました。

1)水分は十分に摂取する

母乳の88%は水分であるために、水分不足は母乳分泌に影響する。水分の補給には、具をたくさん入れた味噌汁、さつま汁、けんちん汁、シチュー、鍋料理などの水分が多く、温かい料理が最適である。なお水分補給を清涼飲料水に依存すると、製品によっては糖分摂取過多を招きやすい。スポーツドリンクは発熱時などに水分と電解質を補給するのに適しているが、糖分やナトリウムを含むので、必要以上に飲みすぎないように注意する

ピンクで強調した部分は、お母さん達にも必要な知識ではないかと思います。
ただし、「水分が多く温かい料理が最適である」に関しては私は「よくわからない」と保留にしたいところです。


それはこちらの記事こちらの記事に書いたように、「冷え」のキーワードからあらぬ方向にお母さん達を信じ込ませる可能性があることが心配だからです。
また、冷たい飲み物が何か体に悪影響を与えるかどうかについても「よくわからない」としか言えないからです。


「母乳育児支援スタンダード」(NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会、医学書院、2009年)の中では、授乳中の水分摂取に関しては以下の通りです。

1.水分

母親が軽くのどの渇きを覚えたら、そのつど水分をとるように勧める。水分制限は産褥期の乳房緊満や分泌過多を予防することにはならない。また体が要求していないのに、大量の水分を摂取した場合は、かえって母乳の母乳の分泌を減らすことがある。

大量の水分摂取が母乳分泌抑制になるかどうかは、私自身はよくわかりませんし、この事実をどのように検証したのか詳細が書かれていないので保留にしたいと思います。


さて、手元にある周産期関係の資料や教科書、あるいは「助産師業務要覧」の中で母乳と水分摂取に関して具体的に書かれているのは上の2ヶ所だけでした。


案外、私たち産科関係者も具体的なことを学んだわけでも、知識としてあるわけでもないのですね。



なぜか。
それは「よくわからない」からだとも言えるし、常識的な範囲で対応すればよいぐらいのことだからだと思います。


<授乳中の水分摂取量を一般化することの難しさ>


おそらく現時点で言えることは、水分を過不足なく摂取するためには具体的な数値を示せないほど個人差があり、それは母乳分泌量も赤ちゃんの成長に応じて大きく変化していくことがあるのではないかと思います。


また、前回の記事で書いた妊娠中の「水血症」の状態が産後、どのように水分を体外に出してもとの血液に濃縮していくのかも、とても個人差があります。
多量の尿量や発汗で自覚される方もいらっしゃれば、下肢や時には手や顔まで浮腫みになる方もいらっしゃいますし、何ら感じない方もいらっしゃいます。



いずれにしても、妊娠中におよそ1.5倍の血液量に増えたものを元に戻そうと心臓や腎臓はフル回転で動いているのではないかと思いますので、産後すぐにはあまり水分を取りすぎると体には負担になるのではないかと気になります。


人の体には生理的な調整機能があるのでたくさん飲んでも必要がなければ尿として排泄されていきますし、足りなければ喉の渇きとして自覚されることでしょう。


ですから今のところ、母乳のために「何リットル飲むとよい」というのはあまり信じなくてよいのではないかと思います。




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