母乳のあれこれ 27 <母乳とフードファディズム>

「ヴェジタリアンをやめた訳」の中で、一時期、肉やエビを食べないようにしていたことを書きました。


その時は「背後カロリー」や途上国の環境破壊や経済格差がきっかけでしたが、もう少し私の人生を遡ると「肉やエビをあまり食べないこだわり」がありました。


もう少し前の20代初めの頃、実家に帰った際の男兄弟と私に対する母親の食事への差が「確執」になったような部分もあるかもしれません。


1970年代から80年代の初め、まだ「男性のほうが良い物を食べて当然」という意識が根強く残っていたり、あるいは肉料理や海老フライが「ハレの日の食事」だった頃の話です。
男兄弟が帰省すると母は盛大にトンカツと海老フライを作るのですが、私には「あなたはあまりトンカツとか海老フライは食べないから何でもいいいでしょ」という感じでした。
いえ、私も食べたかったけれど、小さいころから何となく男兄弟を前に「女の私はあまり食べない方がいいのかな」と遠慮していただけなんですけれどね・・・。



まぁ、誰しも何か食べ物に対するこだわりってありますよね。
何がこだわらせているのか、そしてこだわりから解放されるきっかけは何だったのか、いろいろと興味深いものがあります。


フードファディズム


ちょっとしたこだわりならよいのかもしれませんが、そこから頑なになるとそこにも思わぬ深みにはまる入口が待っています。


フードファディズムという言葉を知ったのは、ニセ科学の問題を知ってからでした。
wikipediaには以下のように説明があります。

食べ物や栄養が健康に与える影響を過大に信じること、科学が立証したことよりもその影響を信じ固執していることである。

なおフードファディズムの対象となりやすいものは、健康に好影響をもたらしそうな食品、有害性が疑わしい食品をはじめとして、ダイエット食品、健康食品、ミネラルウォーターなどである。

このフードファディズムについて著書のある群馬大学教育学部教授、高橋久仁子氏の「食情報とフードファディズム」がネット上で公開されていて参考になると思います。


フォードファディズムは以下の3つに分類されています。

1.健康への好影響を騙る食品の大流行
 「それ」さえ食べれ(飲め)ば万病解決、あるいは短期間で減量可能と吹聴される食品が大流行すること。


2.量の無視
 その食品に含まれる「有益・有害成分」の量には言及せず、「○○に良い」「××に悪い」と主張すること。


3.食品に対する期待や不安の扇動
 個人の状況を勘案せず、ある食品を体に良いと推奨、万能視すること。

そして「針小棒大論に注意」として、以下のように書かれています。

ある食品中に含まれる、ある物質の有益性や有害性を、含有量や摂取頻度、摂取量を無視して論じるのはフードファディズムである。

「和食がよい」、反対に肉や牛乳あるいは砂糖の摂取を「有害」と決めつけてしまう言説は、母乳や育児周辺にはたくさんあります。


そういう話を信じて「食べないこだわり」にはまってしまう前に、このフードファディズムという言葉を思い出していただけたらと思います。


<母乳とミルクとフードファディズム


母乳にはもちろんミルクにないすばらしい点もありますが、ミルクもまたメリットもあります。


ところが母乳を熱心に勧める際に、この母乳のメリットとミルクのデメリットに関して「針小棒大な話」になりやすいのではないかと感じています。


たとえば粉ミルクを介しての感染リスクにサカガキ菌の製造過程での混入があります。
もちろん医療従事者としては適切な調乳を説明する必要がありますが、実際には日本での発症の報告はないわけで、「粉ミルクの使用=サカガキ菌による感染」のリスクを強調しすぎれば現実的ではない不安を与えることにもなります。


あるいは「母乳には○○が入っている。発達にはよい物質である」ということが研究成果としてわかったとしても、ミルクで育った場合あるいは混合栄養の場合に「欠如」として表れたという意味でもありません。


また「頑張って(完全)母乳で育てました」という経験が、他の人にも「母乳のよさ」を伝えたくなるかもしれません。
ただ大事なことは上記3にあるように「個人の状況を勘案せずに」勧める危険性です。
ミルクが必要な母児の状況がある。
医学的必要性だけでなく、社会的に必要なこともあります。
それは本当に一人ひとり状況が違いますから、関わる医師や看護職も悩みながら試行錯誤の上でアドバイスをせざるを得ません。


簡単にミルクを減らしたりやめれば、母乳(だけ)で育てられるわけではないのです。


こうしたニュアンスがきちんと伝わらないと、ミルクを使わないことへのこだわりにさせてしまう危険性もあることでしょう。


妊娠・出産・育児情報の中で心がざわつく時には、このフードファディズムという言葉を思い出してみると、少しこだわりの入口に立っていないか自分を客観的に見直せるかもしれません。




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