乳児用ミルクのあれこれ 34 <乳児用ミルクの改良ー1980-1990年代>

前回の「母乳並みのミルクの誕生」の冒頭では、昨日紹介した時代よりもう少しあとの時代のエピソードも書かれています。

「明治さん、よくぞ先生方の夢を叶えてくれましたねえ」
 とため息まじりに話しかけてこられた、かなり年配のお客様の笑顔が、今でも忘れられません。世界で初めてβ-ラクグロブリンだけを選択分解して、これを減らしたミルクを発表した席でのことです。


専門的なことはわからないのですが、文中に1993年の日本小児保健学会で発表した「アトピー素因児における牛乳アレルギー発症に対する、減β-ラクグロブリンの予防効果に関する検討」が紹介されていますから、1990年代前後のエピソードでしょうか。


育児用ミルクとアレルギーに関して、以下のように書かれています。

 育児用粉ミルクに含まれる牛乳由来のβ-ラクグロブリンという蛋白質は母乳中には含まれずアレルゲン性が高いと言われ、これを減らすことが乳児栄養に携わる小児科医の長年の夢だったのです。

 最近は乳児全体にアレルギーが多くなったと言われています。母乳栄養児も例外ではなく、母乳栄養児でも人工栄養児でもあまり差がないと言われるご時世です。そんな中でこの「β-ラクグロブリン選択分解ミルク」の哺育成績は抜群でした。長期追跡調査の結果、それは以前までのミルクを与えられた群に比べて、一歳半のアトピー性皮膚炎の発症を3分の2に、気管支喘息の発症を4分の1にすることができたのです。


また、時代が前後しますが1984年に乳児用ミルクに銅・亜鉛、そしてタウリンが強化されたことが書かれています。

 銅が欠乏すると発育の遅れ、骨の変化、貧血、多核白血球の減少などを起こし、亜鉛の欠乏では皮膚炎、体重増加不良、貧血、免疫異常、易感染性などを起こしますが、従来からミルクの銅、亜鉛含有量が母乳より少ないことは指摘されていました。しかし、日本では、銅、亜鉛はむしろ重金属汚染を示すものとして警戒され、これらを食品へ加えることは許されませんでした。ところが、下痢をした赤ちゃんで亜鉛欠乏症が報告されたこともあり、小児科学会が厚生省に働きかけた結果、母乳代替品に限って銅、亜鉛の強化が認められ、すべてのミルクに銅、亜鉛が強化されました。
 この時には、タウリンも強化されています。タウリンは、必須アミノ酸であるタチオニンからシスチンを経由して生合成される成分で、母乳中にはかなりの量が遊離の状態で存在しています。赤ちゃんではタチオニンからシスチン、シスチンからタウリンが作られる過程で働く酵素の活性が弱いので、母乳栄養児と同様に、ミルクとして摂取することが望まれます。現在のミルクは先にお話したように乳清増強タイプで十分量のシスチンを含んでいますが、それだけでは不十分なのです。

1970年代終わり頃、看護学校で乳児の栄養について学んだ内容も書かれているのですが、なぜか私自身も1980年代から90年代ぐらいの乳児用ミルクの改良の話題について、あまり記憶がないことにちょっと愕然としています。


1980年代に助産師学生だった時には母乳の成分についての授業はあった記憶があるのですが、乳児用ミルクの歴史やミルクの成分について系統だった授業もありませんでした。
最近のカリキュラムではどうなのでしょうか。



母乳の知識ももちろん大事ですが、周産期医療スタッフや小児科スタッフがフードファデイズムに陥らないようにするためにも、乳児用ミルクについての歴史や改良について、そろそろ俯瞰的に一冊にまとめられた本が欲しいものですね。





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