哺乳瓶のあれこれ 2 <なぜ哺乳瓶が必要とされたか>

なぜ哺乳瓶が必要とされてきたのでしょうか。


こちらの記事に書いたように人は母乳だけで育てられたわけではなく、母乳以外に栄養や水分を補う必要がある場合もあります。
ミルクや哺乳瓶が当たり前のように手に入る時代になるまでは、なんとか栄養になるものを探し出し、それを赤ちゃんの胃の中に入れる必要がありました。


あるいは母乳は出ていても、赤ちゃんが直接お母さんのおっぱいから飲めない状況の場合にも、別の方法で飲ませる必要があります。
それは昔から、同じように親や周囲の人を悩ませていたはずです。


きっと小さなスプーンで液状あるいは流動食のような食品を、ひと口、ひと口とあの小さな新生児の口に運んでいたのでしょう。
口の中には入れられても、うまく飲み込まずに口から溢れてくるのをまたスプーンで口に戻してと繰り返し、20〜30mlぐらいを飲ませるのにも時間もかかり、何よりも溢れて無駄になってしまうことを何とかしたいと思ったことでしょう。


そしてミルクも哺乳瓶も日ごろは何不自由なく手に入る日本でも、この哺乳瓶がなぜ開発され続けてきたか認識する機会が災害時かもしれません。
こちらの記事で紹介した部分を再掲します。

被災地では、ほ乳ビンの消毒がままならず、紙コップを使ってミルクを"その3割をこぼしながら"飲ませていると聞きました。
お風呂に入ったり、汚れた洋服を洗たくしたりすることもそう簡単でないなかで、被災地のお母さんお父さん達がどれほどの苦労をされているのか(以下略)


そして、乳児はその急激な身体の成長のために、一日に何度も何度も授乳が必要です。
そのたびに一口ずつ口に運んでは大事な食糧をこぼし、衣服が汚れるような方法を何とかしたいと、おそらく世界中で求められてきたのでしょう。


生まれた直後からスプーンなどでうまく飲めていれば、哺乳瓶なんて必要性はないのですから。



<乳児の哺乳の観察>


新生児でも一旦、お母さんの乳首や哺乳瓶の乳首に吸い付くと驚くような力で吸い付いたまま離れません。


この大人には絶対にまねのできない口や舌の動きひとつをとっても、直接の授乳がうまくいっている場合には何も疑問に思わずにこの時期がいつのまにか過ぎていくことでしょう。


ところが直接授乳以外の方法を選択せざるをえない状況に遭遇すれば、なぜ新生児や2〜3ヶ月までの乳児は口の中に食糧や水分を入れただけではうまくいかないのか、なぜ乳首を舌で巻き込むような動きをするのかなど、必要に迫られた観察の機会がぐんと増えます。


ある時期からはスプーンで口にいれても飲み込めるようになる、ある月齢になるとマグのようなもので飲むことができ、もう少し月齢が上がるとストローで吸うこともできるようになる。


現代社会では当たり前のようなこの乳児の発達も、「小児科」という分野で観察されておおよそ医学的に体系化された歴史もこの一世紀ほどのことといえます。


そして乳児の哺乳行動の観察の積み重ねによって現在はどのように考えられているかについては、2007年に厚生労働省から出された「授乳・離乳の支援ガイド」が参考になることでしょう。
「離乳の開始」(p.41)に以下のように書かれています。

発達の目安としては、首のすわりがしっかりしている、支えてやるとすわれる、食物に興味を示す、スプーンなどを口に入れても舌で押し出すことが少なくなる(哺乳反射の減弱)などが挙げられる。

(前略)咀しゃく機能の発達の観点からも、通常生後5〜7ヶ月頃にかけて哺乳反射が減弱・消失していく過程で、スプーンが口に入ることも受け入れられていくので、スプーン等の使用は離乳の開始以降でよい。


哺乳瓶の開発がなぜ求められてきたか。
それは新生児や乳児の発達に合った授乳方法が求められてきたということだといえるでしょう。