新生児のあれこれ 38 <「初期嘔吐」は腸の動きの始まり>

お産が終わってほっとして、しばらくしてから赤ちゃんと一緒に過ごし始めるのはお母さんたちにとって緊張もしますが、本当にうれしいものでしょう。


出産直後には赤ちゃんを抱っこどころか顔をみるのも精一杯なぐらい大変だったお母さんたちも、赤ちゃんを連れて行くとみなさん目を輝かしてわが子の顔をじっと見つめています。


この至福の時間に、いきなりゲボッと大量(にみえる)の胃液のようなものを吐かれてお母さん達をびっくりさせます。
これが新生児の「初期嘔吐」です。


この時に、お母さん達はどのような説明をされたでしょうか?
あるいはスタッフは、この「初期嘔吐」の理由をどのように説明しているのでしょうか?


「生まれたばかりの赤ちゃんは『吐きやすい』ですが大丈夫ですよ」ぐらいの説明かもしれません。


私が助産師になった頃から、この「初期嘔吐」の原因というか理由が知りたくていろいろしらべているのですが、納得のいく説明がないのです。
周産期関係者でも、「なんだかわからないけれど出生直後の新生児は吐きやすい」ぐらいの受け止め方だったのではないかと思います。


でも胃の中の物が出てくるわけですから、そこには何か理由があると思います。


<「出生時に飲み込んだ血液」による刺激?>


初期嘔吐の原因を出生時に飲み込んだ血液の刺激によるものという考えが出てきたことを、前回の記事で紹介しました。


「周産期相談318 お母さんへの回答マニュアル」(『周産期医学』編集委員会、2009年、東京医学社)の、「263.よく吐きますが?」への回答と解説として以下のように書かれています。

生後数日以内の嘔吐は、出生時飲み込んだ血液が胃を刺激して起こるもので、数日でみられなくなります。

1)生後数日以内にみられる嘔吐は、分娩時に嚥下した血液の刺激による初期嘔吐が大部分である。

たしかに、吐いたものに血液が混じっていることは珍しくない頻度でありますし、以前は生理食塩水を使って胃洗浄をしていた施設もありました。


それでも多くの場合は胃液様のものだけですから、初期嘔吐には血液を飲み込むことが絶対条件ではないという認識を持っている人も多いのではないかと思います。確認したわけではないですが。


この「仮説」はどのように検証されたのか書かれていませんが、もし血液が胃を刺激しているのであれば、「気持ち悪さ(嘔気)」が継続的にあるでしょうし、それに伴う嘔吐も連続したものだったり、もっと頻繁に不定期におこってもよさそうです。


ところが、新生児は吐く前後はケロッとしていますし、よく見るとだいたい30分から1時間に1回という感じで、定期的に「吐き」ます。
そして多くは数日も続くことはなくて、2〜3回から数回ぐらい胎便が出終わると、吐かなくなるようです。


<腸が動くために「溢れてくる」>


「胎便」の記事で以下のように書きました。

生まれてしばらくしてから激しく泣き、ゲボッと吐いて腸が動き、いきんで・・・と何回か繰り返すと、新生児は目を輝かせながら(と私には見えるのですが)上手にうんちをします。

胎便を肛門のほうへ送り出すための大きな腸の動きの時に、胃の中のものが溢れてくる。


「吐く」のではなく、せっかく乳児には「溢乳(いつにゅう)」=「溢れてくる」という表現があるのですから、「初期嘔吐」というよりもむしろ、出生直後から「溢乳(いつにゅう)」が起きているというほうが正確な表現なのではないかと考えています。


出生直後の新生児がぐずぐずし始めたり、ギャッと啼き始めたらまず抱っこしてみます。


そうするとだいたい2〜3分ぐらいで、すこし背筋をのばして突っ張るような様子を見せながらゲボッとしますが、抱っこしていれば胃の中のものは口まで溢れてきますが、そのあとゴクンと飲み込んでしまいます。
このタイミングが送れると、溢れたものは口から出て「吐いた」と判断されてしまう。
・・・それだけのことではないかと。


血液で胃が刺激されて吐くのでしたら、吐いた後には新生児だって飲みたいとは思わないことでしょう。
ところが、ゲボッとして少しいきんだあと、「ハウハウ」と吸いたそうな様子が見られて母乳やミルクを少し飲みます。


やはり、あれはうんちを送り出すための腸蠕動が始って、時々溢れてくるほど大きな腸の動きがあるため、というほうが合理的ではないかと思います。


小児科の先生方は、こちらに書いたように、看護スタッフから「生まれたばかりの新生児が『吐いています』」と報告を受けて、それなりに理由を考えて説明しなければいけない立場です。


看護スタッフが「吐いた」としか観察できていなければ、小児科医もその情報から判断するしかないでしょう。
おそらく、出生直後の新生児をずっと観察したり抱っこする機会は小児科の先生方も少ないことでしょうから。


「吐く」のではなく「溢れてきた」と言い方を変えてみるだけで、新生児の世界はもう少し違って見えてくるのではないかと思います。




「新生児のあれこれ」まとめはこちら