出生直後の新生児がゲボッと「吐いた」場合にはこちらの記事に書いたように、まず看護スタッフはそれは病的な嘔吐(おうと)なのかそれとも生理的な「初期嘔吐」なのか観察することでしょう。
そして、生後1日2日ぐらいでそこそこに母乳やミルクを飲めるようになった時期に「吐いた」のであれば、「溢(いつ)乳」だろうととらえることが多いのではないかと思います。
案外、この「初期嘔吐」「(病的な)嘔吐」「溢乳」は定義もその意味もあいまいな部分が多い、境界線がわかりにくいもののように感じています。
そして「過飲症候群」として「異常な症状」にされたいくつかも、むしろこの「溢乳」に関連していると思われます。
そういうわけで、今回は「吐く」について少し考えてみようと思います。
<新生児の「嘔吐」と「初期嘔吐」>
私が助産師になった二十数年前はまだ胎児エコー診断も発展途上でしたので、多くの疾患が生まれてからしかわからないものでした。
出生後に異常を発見したら直ちに高次病院の小児科へ搬送することしか救命の手立てのない疾患もありますから、異常の早期発見というのは大事な看護でした。
胎児から新生児になると、子宮内ではほとんどなかった腸蠕動が活発に始ります。
胃や腸の中のものを肛門の方へ向って送り出す。
この動きが消化管のどこかで、なんらかの理由があって妨げられれば、口の方に逆流させて吐き出すしかありません。
新生児が吐いたらまずは消化管疾患の存在を考えて観察することは、新生児看護の基本中の基本です。
とりわけ生まれてから24時間以内ぐらいの嘔吐が、「初期嘔吐」であるか異常な疾患であるかを見極めることは大事です。
「ベッドサイドの新生児の診かた 改訂2版」(河野寿夫氏、南山堂、2009年)の「新生児によくみられる異常」では嘔吐に関して以下のように書かれています。
嘔吐に関しては、その正常、量などに注意して鑑別をすすめていく、重要な点は吐物の性状と全身状態である。生後早期の嘔吐では、羊水様のものを数回嘔吐しただけで24時間以内に改善する初期嘔吐と呼ばれるものがあるが、もし嘔吐物に胆汁様のものが含まれている場合は、消化管閉塞の可能性があり注意が必要で、できれば小児外科のある施設に転院させた方が無難である。
私の経験でもこの胆汁が混ざった嘔吐のあった新生児が小児外科へ転院になったことが、数回あります。
羊水様か胆汁が混入しているか。
このあたりが異常な嘔吐か、「初期嘔吐」かの判断のひとつになるようです。
もうひとつは吐いたものに血液が混じっていることがあります。
吐物に血液が混じる場合には、母体血を飲み込んでいる場合と、児自身の出血の場合とがある。(中略)
児自身の出血の場合には、ビタミンK欠乏による出血性疾患である可能性と、急性粘膜病変の場合とがある。ビタミンK欠乏性出血傾向の場合には、日齢1以降に発症することが多い。いずれも血便(メレナ)を伴い、出血量が多い場合には貧血や失血性のショックに至ることもある。治療としてはビタミンKの投与やH2ブロッカーの投与、MAP血や新鮮凍結血漿(FFP)の投与などの対症療法を行う。
新生児メレナとビタミンK2シロップについてはこちらの記事に書きました。
生まれた直後の新生児の吐いたものに血液が混じっていれば、このメレナを頭の隅にいれながら観察するとともに、産道(帝王切開の場合には手術創)の母体血の可能性のも考えますし、その母体血が初期嘔吐の引き金になっているという考え方もあるようです。
「周産期相談318 お母さんへの回答マニュアル」(「周産期医学2009年vol.39増刊号、東京医学社)の「263 よく吐きますが?」の回答モデルの最初にこのように書かれています。
生後数日以内の嘔吐は、出生時飲み込んだ血液が胃を刺激して起こるもので、数日でみられなくなります。
ということで、出生直後の新生児の「嘔吐」は大半が病的ではない「初期嘔吐」という判断がされていると思います。
ただ、もしかしたら「初期嘔吐」という状態はむしろほとんどが「溢乳」ではないかと、最近私は思うようになりました。
そのあたりを次回書いてみようと思います。
「新生児のあれこれ」まとめはこちら。