自律授乳のあれこれ 12 <新生児の気持ちはどこにある?>

前回のWHOの「母乳育児成功のための10か条」の中の「4.母親が分娩後、30分以内に母乳を飲ませるように援助をすること」を勧めていくために、さらに「援助方法」がつくられていきました。


<科学的のようで科学的でないような・・・>



「母乳育児支援スタンダード」(NPO日本ラクテーション・コンサルタント協会、医学書院、2008年)に「早期授乳を援助する際の方法」(p.166〜)が書かれています。

1.早期授乳を支援する時の留意点


1)分娩直後の最初の授乳は静かな雰囲気の中で行われる必要がある。
2)援助者の役割は介入することではなく、見守ることである。
3)母親が安楽な姿勢でいられるように助ける。
4)児の手を前腕以外の部分をタオルで拭いて乾かし、児は裸のままにする(ただし、児が早期接触中に母親の腹部周辺で対便を排出することもあるので、おむつをつけていてもよい)。
5)母親と児のバイタル・サインのチェックは最低限の介入で行うのがよい。
(以下、略)

私の勤務先では、上のお子さんも立ち会うことがあります。
赤ちゃんが生まれると、大はしゃぎでお母さんにいろいろ話しかけたりそれはそれはにぎやかです。
経産婦さんだと、上の子に話かけながらひょいっと生まれたばかりの赤ちゃんにおっぱいを吸わせ始めたりしています。
「静かな環境」で授乳をした場合としなかった場合、何か違いがあるのでしょうか?


こういう場面をみただけでも、1)は絶対条件ではないといえるでしょう。


4)の「児の手を前腕以外の部分をタオルで拭いて乾かし」は、こちらの記事で紹介した「正期産児の早期授乳支援」はもしかしたら冒頭の本から広がったのかもしれせん。

覚醒すると、まず羊水の付着した手をなめる行動をする。そのために、手についた羊水はあえてふき取らないようにしている。

勤務先では、不感蒸泄による体温低下を防ぐために出生直後に羊水はきちんとふき取っていますが、やはり新生児というのは手をなめる行動を皆しています。


このあたりも、「分娩直後に『授乳』をさせる」ことが「自律授乳」には大事であるという思い込みが、新生児のありのままを観察する目を曇らせてしまっているのではないでしょうか。



<新生児は何をしたいのか>


さて、上記の留意点に続いて、早期授乳のための「具体的な援助の方法」が挙げられています。

1)出産後すぐに、母親のお腹か胸に腹ばいに児をのせて、肌と肌を触れ合わせるようにする。温かい毛布を児の上から母親も一緒に覆うように掛ける。
2)児が自分で乳房を探ることができるように、忍耐強く待つ
3)母親が戸惑っていたり、困っていたりしているようだった場合にのみ手を差し伸べる。
4)児が吸いたそうなのに、(出生後)1時間たっても自分で吸い付けない場合は助け舟を出す。
(以下、略)

カンガルーケア(早期母子接触)に関しては、「カンガルーケアを考える」「早期母子接触」のシリーズで書きましたので、ご参照ください。


「母親がとまどっているようなら手助けをする」のに対し、新生児はとまどった様子はないのでしょうか?
なぜ1時間は自力で乳首を探し当てるのを待たなければいけないのでしょうか?
それは新生児もとまどっているということではないのでしょうか?


そして、母親の疾患などで最初から直接授乳をする機会のない新生児は、どのような行動をし、私たちはどのように見守ってあげたらよいのでしょうか?


その両者には、「それをした場合としなかった場合の決定的な違い」はあるのでしょうか?


明らかな違いが不明であれば、その効果もまた不明であると考えるのが「科学的な」考察だいうことでしょう。



カンガルーケア(早期母子接触)について話題になるのは、その実施中の危険性に焦点を当てたものばかりですが、「新生児が何をしたいのか」「何をしているのか」についての観察が不足した仮説に過ぎないことへの議論がもう少しあってもよいように思います。


何よりも「科学的根拠に基づく医療」を考えれば、医療者側から勧めるほどのものではないという結論になると思うのですが。