「自律授乳」とはどのような定義なのか探してもみつからないのですが、それらしい考え方が「Q&Aで学ぶお母さんと赤ちゃんの栄養」(「周産期医学」2012 Vol.42増刊号、東京医学社)の中に書かれていました、
しばらくその内容について考えてみたいと思います。
<「赤ちゃん主導の授乳」>
「授乳は1日何回、どのくらいの間隔でしたらいいのですか?」という質問に対する回答として、以下のように書かれています。
赤ちゃん主導の授乳とその効果
「赤ちゃんが欲しがるときに欲しがるだけの授乳をすることで母乳育児がうまくいくことがわかっている(母乳育児成功のための10か条の第8か条)」。
「欲しがるだけの授乳」は「赤ちゃん主導の授乳」ともいい、授乳回数や時間は、赤ちゃんのニーズやサインによって決まることを意味する。
「赤ちゃんが欲しがるときにほしがるだけの授乳」を、私は今まで「自律授乳」の意味だと漠然と理解していましたから、それが「赤ちゃん主導の授乳」という言葉で表されるようになったことを初めて知りました。
なぜ「自律授乳」というすでに広まっている言葉が説明の中では使われず、あえて「赤ちゃん主導の授乳」という言葉になっているのか、経緯は書かれていませんでした。
そして注意が必要なのが、これらの言葉が生み出された背景はあくまでも「母乳育児がうまくいくための」「(母乳で育っている)赤ちゃん主導の授乳」という、狭義の授乳について述べられていることではないかと思います。
特にミルクだけで育っている赤ちゃんの「自律」はどうなのか、それは母乳で育つ赤ちゃんとは同じなのか異なるのか。
そのあたりの比較や検証がされたものではない。
つまりすべての新生児から乳児の「自律」とは何かという観察に基づいたものではなかったのではないかといえるのではないでしょうか。
<赤ちゃんのニーズやサイン>
冒頭の引用文の中に、「授乳回数や時間は、赤ちゃんのニーズやサインによって決まる」と書かれていますが、「サイン」については以下のように書かれています。
哺乳の回数や時間を自分で調節するように任された赤ちゃんは、自分の空腹や満腹のサインが自分でわかるようになる。
細かいところに引っかかってしまって申し訳ないのですが、「自分の空腹や満腹のサイン」ではなく、「自分の空腹や満腹のニーズ」ではないかと思います。
そのニーズをわかった上で表現するのが「サイン」だと思います。
ただ、いずれにしても「赤ちゃんのニーズ」として考えられているものは、「空腹や満腹」のみのようです。
<「空腹のサイン」>
続いて「空腹のサイン」が書かれています。
新生児が母乳を飲みたがっている早期の空腹のサインがわかり、それに応えることができるように母親に教える。
児が母乳を飲みたがっている早期のサインには次のようなことが含まれる。
1)吸うように口を動かす。
2)吸う時のような音を立てる。
3)手を口に持っていく。
4)急激な眼球運動(レム睡眠)が見られる時。
5)クーとかハーというようなやわらかい声をだす。
6)むずかる。
泣くことは母乳を飲みたがっている遅いサインであって、効果的な母乳育児の妨げとなるかもしれない。
きっと上記の「空腹のサイン」を教えられたら、特に生後まだ数日以内の新生児を世話し始めた、初めてのお母さん達はおおいに混乱するだろうと思います。
「吸うように口を動かしたとき」や「手を口に持っていく」ようなタイミングでおっぱいを近づけたり、哺乳瓶を近づければ、ほぼ100%の確率で口を頑なに閉ざされるか、手で払いのけられてしまうことでしょう。
「泣き出したら遅いサイン」と教えられれば、起きそうな気配がしただけでお母さん達は授乳の準備をして緊張して待つことでしょう。
ところがそれだけ準備万端にしても、起きたばかりの赤ちゃんは抱っこされているので泣くことはないけれど、吸うこともしないことがほとんどです。
「目が覚めたらお腹がすく(空腹)」なのではなく、「目が覚めたら腸が動き始めるので、最初にゲップのような大きな腸蠕動が起きる」のではないかと私には感じられるのです。
日々新生児を抱っこし観察する機会があれば、「空腹」「満腹」だけが赤ちゃんのニーズではありえないわけです。
上記のサインでは対応しきれない新生児の様子がたくさんあるわけで、そう考えれば、「早期の空腹のサイン」も「母乳を飲みたがっている遅いサイン」も単に仮説にすぎないといえるのではないでしょうか。