ケアとは何か 13 <「実はこんなにスゴかった 日本の看護師」>

先日、偶然つけたテレビで「世界が驚いたニッポン!スゴーイデスネ!!視察団『実はこんなにスゴかった 日本の看護師2時間SP』」を放送していたので、途中からその番組を見ました。


「小児科病棟」「入院病棟」「手術の現場」「夜勤業務」「緊急医療ヘリ」「診療所」の6場面から構成されていて、私は「入院病棟」の途中から見始めました。


どこかに放送内容が書かれていないかと思っていたら、m3の医療ニュースにLive on TVというサイトでまとめた内容がありました。


番組を見て感じたのは、やはり社会が看護職に求めていたりイメージするものは「気遣いのケア」なのかなという、ちょっとがっかり感でした。


たとえば、こんな場面です。

順天堂大学医学部付属病院では患者の体を拭くのは看護師が行っている。アメリカでは看護助手が体を拭く作業が多いが、日本の病棟では患者の状態を確認するため、看護師が行っている。

日本で看護職が清拭を行っている背景とアメリカとの違いについては、「質の高い看護」とは何かについての記事でも少し書きました。


さて番組では、こんな場面を移映していました。

なお、ヴァレリー・メシナさんの病院では、石鹸と水が含まれているタオルと、抗菌用のウエットタオルの2つのタオルを利用して患者の体を拭いているが、順天堂大学医学部付属練馬病院では保湿液を混ぜたお湯でタオルをしぼって拭く。お湯に濡らしたタオルは端から冷えるため、タオルの端を内側に巻き込むことで、冷めにくいよう工夫もしている

大きな洗面器と熱いお湯が入ったピッチャーを使いながらの、30年以上前に私が看護学生で習った方法で清拭をしていたので、ちょっとめまいがしましたが、それぞれの施設でやりやすい方法であればそれ自体はかまわないとは思います。


ただ、「清拭をするときの気遣い」のような方法論的な描き方に、「すごさはそこではないのだけれど」と違和感を感じました。


「夜勤業務」では、こんな感じです。

 この病院で看護師は夜勤時、4人体制で16時間勤務のうち2時間休憩をとりながら定期的に病室を見回り担当患者をチェックしている。その際、患者がトイレに行く時に転倒事故などを起こさぬよう、ベッドから起き上がる位置にスリッパをそろえる。患者の入眠を妨げないよう懐中電灯で見回るアメリカではある程度の明るさのライトをつけるのだという。
 夜勤でナースコールが鳴れば看護師は患者のトイレなどにも付き添う。多い時で一晩50〜100回鳴るそうだ。午前8時過ぎに引き継ぎをして夜勤業務が終了した。

夜間のベッドからの転落や、起立時の転倒予防は、医療安全対策として重要なので、スリッパをそろえることもその施設でヒヤリとした経験が生かされているのかもしれません。


ただ、全体に「気遣い」が前面に出された受け止め方になっている番組になっているように感じました。



番組ではさらっと「多い時で一晩50〜100回鳴る」とナースコールについて放送していましたが、この時の看護スタッフの思考や行動をもう少し深く観察してくだされば、「日本の看護師はスゴーイ」となったかもしれませんね。


おそらくひとつのナースコールでも、鳴った途端に「相手の状況はどのような状況か」「どのような治療をしているのか」「どのような対応が必要か」という患者さんの看護計画から、さらには家族背景を含めた療養上の問題点まで思い描きながら対応していることでしょう。
見守るしかない「重荷のケア」も含めて。


そしてナースコールの対応から戻って来た時点で、新たに患者さんに問題点はないか、ケアで見直すことはないかと評価と計画変更が常に意識されていることではないかと思います。


清拭を看護師のケアに位置づけているのも、ただ「喜ばれたい」というケアだからではなく、患者さんの生活全体を見守るケアだからだと私自身は思っています。


もちろん新人から達人までさまざまなレベルのスタッフがいますから、理想と現実の問題もありますが。



そして日本の看護師だけでなく世界の看護師もまた、あるいは介護や保育といったケアを担うすべての職種が同じような方向性をもっているように思えるのです。



そこでやはり、こちらこちらで紹介した、薄井担子氏の「科学的看護論」の一文が大事だと改めて思いました。

心が大切だ、というような感覚的な把握の仕方では、実践上ゆきづまったとき、"こうしてみよう"と考えて取り組むことを可能にするような指針を取り出すことはできない。

良きにつけ悪しきにつけ自分の実践をはっきりとつかみとろうとしなければ、優れた実践は1回限りのもので終わるかもしれない。失敗例はくりかえされるかもしれない。


看護実践の一回性、つまり再現性のないことの限界のなかで、対象にとってよりよいケアとは何か。
まだまだ奥が深い部分だと思います。





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