看護基礎教育の大学化 10 <3年から4年教育へのからくり>

1980年代から1990年代というのは、医療がますます高度化する時代でした。


たとえば産婦人科医が子宮を、小児科医にとっては胎児がブラックボックスであったのが1970年代まで続いていたことはこちらの記事で書きました。



1980年代初頭にICU(集中治療室)や人工透析ができる病院というのはまだ少なかったのですが、1980年代半ばには一般的になっていきました。
たとえば交通事故などの多発外傷に対応する救命救急センターも、この頃にようやく始りました。
知人が医師になった後、日本ではまだ珍しかった日本医科大学救命救急センターへの熱い想いを語っていたので、記憶に強く残っています。


1980年代を境に医療は急激に進んだと、今思い返しています。


看護もそれにともなって、より専門性が求められていく時代になりました。
看護基礎教育もそれまでの3年ではとても時間が足りなくなり、4年に延長するのも仕方がないと漠然と感じていました。


<看護師教育+保健師教育+助産師教育=4年?>


ところが看護基礎教育を4年にするのではなく、それまで1年間の過密なカリキュラムであった保健師助産師の2年分の教育をあわせて4年間にするというのが大学教育の始まりでした。


今まで以上に過密なカリキュラムにしなければ、5年間の教育を4年で達成するのは計算があわないはずです。


たとえ助産師過程をとらずに看護師教育3年+保健師1年=4年だとしても、それでは高度化する医療に対応するための大学教育化というのは名ばかりになってしまいます。


いったいどこへ向おうとしているのだろうと、臨床で働く側からは理解できないものでした。


<実習時間を減らして時間を確保>


今まで私もあまり関心を持ってこなかったのですが、看護教育の内容が「薄く」なっていることにあらためて驚いています。


2006年に日本医療労働組合連合会が出した「看護教育をめぐる基本的な考え方と要求」が公開されていますが、その中の「(3)臨地実習の不足など、看護基礎教育の問題点」(p.3)に以下のように書かれています。

現場が求める実践能力のレベルが上がっている一方で、看護基礎教育の教育時間が過去に比べて減少していることが大きな問題と指摘されています。看護師3年過程の教育時間は、1989年改正でそれまでの3,375時間から3,000時間に減り、さらに1996年改正で2,895時間(計14.2%減)となりました。

特に臨地実習は1989年改正で、それまでの1,770時間から1,035時間(41.5%)へと4割も減った上に、1996年改正で7領域に増えるなど、学ぶ内容は逆に拡大しています。そうした下で、看護学生が必要な看護実践能力を十分に身につけることができないまま、看護の現場に送り出されているのです。

大学卒だけでなく専門学校卒の新人教育が現場に重くのしかかってきたのが2000年前後でした。


当然看護学校で学んできたはずということが通用しない人が増えたことは、漠然と感じていました。

一部には理論偏重の傾向もみられますが、臨地実習の場での基本的な看護実践能力の習得が十分になされていない状況も生まれています。

そこで就職した各施設で段階的に育てる卒後教育が大事という方向になるのですが、医師のように厳密な研修期間があるわけでもなく、看護職の場合は半年もすると「スタッフの一人」という頭数に含まれていきます。


こうした現場が求める看護教育のレベルという現実の話ではなく、3年を4年にすることが目的になってしまった矛盾がたくさん出てきているのだと思います。

しかも実質減らした教育時間はどこへ行ってしまったのでしょうか?


2008年頃から、さらにその矛盾をなんとかするための理由が聞かれるようになります。
次回からはそのあたりを考えてみようと思います。






「看護基礎教育の大学化」まとめはこちら