看護基礎教育の大学化 18 <なぜ標準的な手順が作られないのか>

前回書いた看護手順がなぜ未だに統一したものができないのでしょうか?


実際に使用するにはそれぞれの施設の状況に合ったものになるように多少変更をする必要がありますが、その根幹となる日本全国の施設が参考にできるような標準化した手順があり、定期的に改訂されていれば、それを参考に自分の施設に合わせて活用することができます。


周産期看護でも、標準的な看護はどのようなものだろうかと悩むことが多いです。
ところが、全国の施設でどのような方法が行われているのかという全体像さえ把握するシステムがないことが、看護手順の標準化を妨げている一番の理由だと考えています。


<標準化された看護ケアがない>


たとえば、切迫早産で入院した方への看護ひとつをとっても、未だに自分がしていることはどこまで根拠があり、全国の施設ではどうしているのだろうと調べてもそういう資料はほとんどないようです。


切迫早産の治療は、塩酸リトドリンと硫酸マグネシウムという子宮収縮を抑制する薬の持続点滴と安静臥床が基本的ではないかと思います。
治療方針に関しては「産婦人科診療ガイドライン産科編」が2009年頃から日本産婦人科学会から出されるようになり、基本的な考え方が私たち看護職にもわかりやすくなりました。


それでも実際には、塩酸リトドリンや硫酸マグネシウムの投与量も、あるいは安静度の厳しさも医師や施設によって違いが大きいものです。


そのあたりは「医師のさじ加減」なので、私たち看護職は治療方針に従うしかありません。
でも、いつからシャワーに入れるのか、どれくらいの安静度が実際に必要なのか、子宮収縮抑制剤による副作用がどれくらいあってどのように対応しているのか、子宮収縮抑制剤投与中にヒヤリとしたケースから得られた注意すべき観察ポイントは何かなど、看護に関する具体的な情報は未だにその施設内の経験に頼っている状況です。


たとえば私の勤務先では、入院後数日である程度おなかの張りが抑えられれば持続点滴をしたままでシャワーに入ってもらいます。それ以降は、2日に一回ぐらいのペースで入るようにしています。
ところが、施設によっては1ヶ月近くもシャワーは禁止され、清拭だけというところもあるようです。
あるいはもっと早くから許可がでる施設もあるのかもしれません。


妊婦さんにとって、洗髪や入浴というのは大事な生活の一部です。
ある施設で早くから許可をしても問題がないことが、他の施設では禁止されているとしたら、私たちは根拠のない看護を患者さんに強いていることになります。


全国の産科施設ではどんな判断で、どのようにしているのだろう。
知りたくてもわからないままです。


<全体を把握するシステムがない>


2009年に初めて上記の産科診療ガイドラインが出されたとき、私はこれでようやく周産期看護研究センターのようなものができて、このガイドラインに応じた看護の標準化が進むのではないかと期待していました。


そしてそれを担うのが看護系の大学ではないでしょうか。


それまでのように各大学のそれぞれの関心のある研究テーマを論文にすることよりも、大学間の壁をなくし、まずは周産期看護の全体像をとらえるためのデーターを集める研究者の集まりを作って欲しいとずっと考えています。


日本全国の産科施設でどのような看護が実際に行われているのか。
その考え方や根拠の幅を把握し、より患者さんに負担のないケアとは何か標準化していく。
あるいはインシデントレポートもそのセンターに集中させて、手順の中での注意点に反映させていく。


「私たちがこうしている方法が『効果がある』ように思われるが・・・」という提案を拾い上げ、全国で一斉に「それをした場合としない場合」の臨床比較研究を実施する。


そうして看護を標準化し、全国で統一した基本的な手順を作り、改訂する。


それが「科学的な看護」ではないかと思うのです。
反対に看護手順が標準化されないままでいるということは、まだまだ科学的な思考や手法とは程遠い世界なのではないかと思います。






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