行間を読む 16 <「もう少し親身になってほしかった」>

先日のこちらの記事で、「最初に相談したときにやはり医師ももう少し親身に対応して欲しかった」と言われたことを書きました。


「最初」というのは産後1ヶ月の頃に、便失禁があることを相談した時のことです。


私はその状況に実際に立ち会っていないのですが、その方の話からは「しばらくは骨盤底筋群の体操をして様子をみるしかないでしょう」と説明されたようです。


たとえば産後の軽度の尿失禁であれば、3ヶ月ぐらい、骨盤底筋群のトレーニングをして様子をみるという考え方が一般的ではないかと思います。


ですから私の勤務先の医師も、現時点での医学的な答えを医師の立場として答えていることになります。
「(少し時間はかかるけれど、産後の回復には時間がかかるので)様子をみるしかないでしょう」ということだったのだと思います。


なぜ、彼女はその答えでは「親身になってもらえなかった」と受け止めたのだろうと、当時、あれこれと考えました。


<心情的な共感が必要だった>


それまで自律した排泄をしていた成人女性が失禁、しかも便失禁の不安に悩まされるというのは絶望的な思いを抱えて相談されたのではないかと思います。
そして、無事に赤ちゃんも生まれて本来なら喜びのなかで産後の生活が始っている時期です。


おそらく外来診療の中で、この気持ちを受け止める段階が足りなかったことが、医師への対応への不満になったひとつなのではないかと考えています。


ただ、それは「一緒に悩み、一緒に涙してくれるような医師像」を求めているわけでもないのかもしれません。


<見通しと今後のフォローを明確にする>


通常は、産後1ヶ月健診が終わると、妊娠・出産で通院していた産院とも関わることがなくなります。


彼女にすると、「今後私の体はどうなるのか」という大きな不安とともに「どこに相談したらよいのか」という2つの不安があったのだと思います。


「しばらく様子をみて」という答えで、その後彼女は何ヶ所も専門病院を探し回ることになりました。
それぞれの病院で少しずつ診断や治療方針が違うのは、医療従事者側からみれば許容範囲のことだと思いますが、彼女はそこにまた医療への不信感を強めていったようです。


「いつぐらいまで様子をみて」「改善がなかったら、こちらから○○病院、あるいはご自身が受診希望される施設へ紹介します」
この説明があれば、もう少し彼女の受け止め方も違っていたのではないかと思います。


<医師に何を求めるのか>


それは医師の説明や配慮が足りなかったのでしょうか?


どうしても医師というのは批判の矢面に立たされます。
「言い方が不親切」「患者の気持ちをわかっていない」などなど。


ところで私も50代半ば近くなって、周囲の「医師」の方々の多くが年下の年代になってしまったことに、最近気づきました(笑)。


たとえば私の勤務先の先生も40代ですが、毎年千人近い初診カルテが増え、300件ぐらいの分娩に対しての責任を負っています。
時には「(言葉が足りないかも)」とか「(あーーー、その言い方ではなくもっと他の言い方のほうが・・・)」と側で見ていてヒヤリとすることもあります。


でも、30代から40代という若い年代で、これだけの人数の患者さんや妊産婦さんの診療に対応されているだけでもすごいことだと、最近つくづく思うようになりました。


身贔屓に聞こえるかもしれませんが。


<医師の説明不足というよりはチームワーク>


あくまでも私個人の考え方ですが、医師はあまり患者さんに感情移入をしないほうが良いように思っています。


患者さんの気持ちに共感し温かい言葉をかけられれば、もちろん患者さんもうれしいと思います。
ちょっとしたひとことや共感のまなざしだけでも、人は勇気をもらい絶望から救われることもあるでしょう。


でもそういう段階になるためには、医師もまた達人への道が必要なのではないかと思います。
ベナーの達人看護師を医師に読み替えてみます。

達人(医師)は背後に豊富な経験を有しているため、状況を直感的に把握し、他の診断や解決方法があるのではないかと、正確な方法に照準をあわせることができる。また達人(医師)の特徴として、患者に傾倒すること(commitment)、状況に巻き込まれること(involvement)がある。

医師の場合、「傾倒すること」「状況に巻き込まれること」は感情移入というよりは、患者さんが知りたい今後の経過や治療の見通しまで見えるようになるということではないかと思います。


とりあえずは、クールな診断と治療に全力を注いでくだされば十分かと思うようになりました。


「ここはもう一言必要かな」「もう少し説明が必要かな」という点は、周囲の看護スタッフが見逃さないで対応する。
それでよいのではないかと思います。


「もう少し親身になって欲しかった」
それに対する私たちの教訓は、産後1ヶ月前後の排泄トラブルを見逃さない、悩みがある方には専門医への紹介の機会を見逃さない。


医師のせいではなく、チーム全体での改善が答えです。






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