ケアとは何か 1 <基本的欲求に対する援助>

お産の進行中にずっと側にいてケアをしたり、赤ちゃんの誕生に立ち会えることはとてもやりがいもあるのですが、私がとても大好きなケアをひとつあげるとしたら、お産直後のお母さんの清拭(せいしき)です。


お産が終わって落ち着いた頃に、温かいタオルで体を拭いて新しい着物に着替えて部屋に帰る準備をするのです。


清拭や足浴・手浴、口腔ケアあるいは洗髪の介助は「清潔の援助」ですが、30年以上前に看護師として働きだした時から好きなケアでした。
卒業した看護学校やその付属の病院が、そういう基本的ケアをとても大事にしていたことが一番の影響かもしれません。


寝たきりの方や入浴が制限されている方には毎日体を拭いて、清拭だけでは十分にさっぱりできない手や足をお湯につけて石けんで皮膚の汚れを落とします。
患者さんの体調を見て、疲労感を持たせないように配慮して実施します。
「あーさっぱりした」と喜ばれると、本当にうれしいものでした。
でも自己満足ではいけないし、あるスタッフの時はしても他のスタッフはしない、あるいはある患者さんにはしたけれど他の患者さんはできなかったというのでは安定した日常生活への援助にはなりませんから、きちんと病棟全体の計画を立てて実施していました。


卒後しばらくして助産婦学生になった時に、教科書に以下のように書かれていたのを見て、うれしい気持ちになったことを覚えています。

分娩直後の褥婦は出産をなしとげたという充実感をかみしめているが、身体的には体力の消耗による強い疲労感がある。このため分娩後は静かな環境を作り、保温に留意し休息をとらせる。疲労感著著明の時は清拭後足浴をさせることにより気分爽快となる
「母子保健ノート2 助産学」(日本看護協会出版会、1987年)

どこに就職しても、堂々と分娩直後に清拭を看護業務として取り入れてよいのだ、というお墨付きをもらった気分でした。


実際には足浴は切迫早産などの絶対安静の方ぐらいしかしていませんが、このお産直後の清拭は、よほど寒気があったり出血が多く観察のほうが優先される方以外には必ず実施してきました。


助産婦学生の時の教官が準備されたサブテキストには、たしか「お産の労をねぎらい、心をこめて清拭をする」といった一文があったと記憶しています。
毎回、お産直後の清拭をするたびにその言葉が蘇ってくるので。


<基本的欲求に対する援助>



この清潔への援助も、看護の中では「基本的欲求に対する援助」として大事なものです。


こちらの記事で、ナイチンゲールの「看護覚え書き」(現代社)の中に「換気と保温」「物音」「変化」「食事」「ベッドと寝具類」「部屋と壁の清潔」「病人の観察」といった項目があることを紹介しました。


「排泄」もとても大事なケアのひとつです。


病気の療養が必要な方にはその治療方針を踏まえた看護ケアが必要になり、それを担っているのが看護職です。
こちらの記事の最後に紹介した看護大学生の「お手伝いさん的と言われようと清拭や洗髪やおしゃべりや・・・、そういうことも含めて『看護らしい』んです」ということに共感する看護職が多いのではないかと思います、日本には。


また高齢者や障害を持った方々には、その日常生活を整えるためのケアが「介護」です。



看護と介護のケアの境界線について考えたことをこちらで書きました。


もうひとつ、上記の基本的欲求に対する援助があてはまるものがあります。
育児ですね。


産後のトラブルの記事と離れているように見えますが、ケアという言葉を考えてからそのあと続きます。
次回はその「ケアの語源」を考えてみたいと思います。





「ケアとは何か」まとめはこちら