200年前の医学のレベルではいざ知らず、現代では荒唐無稽な話であると明らかになっても根強く残るホメオパシーも、「社会や人が求めるわかりやすい答え」が巧みに取り込まれているからいつまでも話題として蘇ってくるのでしょうか。
そのホメオパシーの動向をもらさずに指摘できる人のひとりがうさぎ林檎さんだといつもその熱意に敬意をもって、ブログとツイッターを読んでいます。
さて、その中に以下のつぶやきが。
「バース・トラウマ」で1回ググって見ればいいんですよ。検索結果一覧をよく見ることです。
誰がそれを問題にしているのか、よく理解できます。 #あさイチ
(2014年9月30日 17:52)
うさぎ林檎さんが簡潔な一文をつぶやくときには、その裏に大事な警鐘が隠されていますからね。
「バース・トラウマ」
まるで周産期医療で使われているかのようなこの用語ですが、使われていません。
私もなんとなく聞いた事がある程度、それもやはりニセ科学界隈の自己啓発セミナーとかの関連で聞いたことがある程度だったのでググってみました、はい。
<「バース・トラウマ」とは>
ググってみましたが、いつもの頼みのwikipediaさえありません(笑)。
「バース・トラウマ、インナーチャイルドの解消ヒーリング」というサイトではこんな説明が書かれています。
産道を通る時の苦しみ、難産、誕生後に母と別の場所(新生児室など)におかれることで、悲しみの経験などで作られる「バーストラウマ」
赤ちゃんから成人までの期間において、傷ついた出来事や満たされなかった欲求が主な原因となっている心の傷「インナーチャイルド」
どうやら出産した本人のトラウマではなく、赤ちゃんに対して使われている言葉のようです。
まあ1980年代頃からの自己愛を高める話やセミナーが多かった時代の記憶がある私には、うさんくささと気持ち悪さを思い出させる内容ですけれどね。
<NHKが勝手に造語を広げるのはいかがなものか>
この「生まれる時に傷ついた話」がどこで「産んだ時に傷ついた」話に変わったのでしょうか。
"お産トラウマとは"
番組では「出産によるショックやわだかまりが、長く心に残っている状態」を"お産トラウマ”と名付け、出産で受けた心の傷について考えました。
なるほど、赤ちゃんのバーストラウマではなく、出産によるショックやわだかまりといったお母さん側のことを「お産トラウマ」として分けているのですね。
・・・って、勝手に分類したり名付けたりしてはダメでしょう?
こういうことは、医療や心理学あるいは社会学といった専門的な調査や研究により問題が明らかにされて初めて、その現象を表現する言葉が定義とともに作られていくものではないかと思います。
<どのような現象から問題提起されたのか>
上記のNHKの番組サイトには、お産トラウマと名付けて番組まで作成したきっかけが以下のように書かれています。
7月に「帝王切開と心の傷」について取り上げたところ、わずか10分のコーナーに1,200通のファックスが寄せられました。
どうやらこのファックスを元に、「長年、いわばトラウマといえる、心の傷を抱えるケースが少なくなかったのです」と判断し、「お産の際に、なぜトラウマが起きてしまうのか、どう対処すればいのかお伝えしました」となったようです。
帝王切開に対する思いが書かれたファックスからお産全てのトラウマとした点で、飛躍しすぎではないかと思います。
さらに「挫折感」「病院の対応」「医療処置」「家族の対応」をあげて、「分析してみると4つの原因があることがわかりました」と書かれています。
日々、妊産婦さんの感情の揺れに接していると、妊娠・出産そして育児の時期に上記の4つのうちひとつも不満を感じない人なんていないと思いますけれどね。
医療全体で改善すべき事はなにか、社会全体で解決すべきことはなにか、そして個人の問題で折り合いをつけることはなにか。
そこを整理して伝えるのがNHKの役割ではないかと思います。
まるであるかのような状況の造語を勝手に作り、広げる事ではなく。
ありえないこともないと絶妙なネーミングで多くのお母さんたちに罪悪感をもたらせ、代替療法へと向かわせた母原病という言葉と同じく、「お産トラウマ」という言葉でかえって心の傷を作り出される人もいることでしょう。
「お産トラウマ」の定義は何ですか?
その言葉からバーストラウマの世界へとはまり込む人たちに、NHKは責任をどうとるつもりなのでしょうか。
バイブル商法に加担していることになるのですけれどね。
「思い込みと妄想」まとめはこちら。